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1.落下物 早朝サイクリングは第2中継点、つまり光陽園駅前にて終わりを告げる。 実はここまでも結構な上り坂で、ハルヒを乗せて自転車を漕ぐ俺はかなり必死だ。 ハルヒは俺を馬くらいに思ってるのか、「もっと早く漕ぎなさい!」なんて命令しやがる。 それでも毎日律儀に迎えに行っている俺って何なんだろうね。 駅前駐輪場に自転車を停め、そこからはハイキングだ。 いつも通り、ハルヒと他愛もない話をしながら坂を上る。 話題もいつも通りだ。 朝比奈さんのコスプレ衣装、週末の探索の話、SOS団の今後の活動予定、 何故宇宙人が現れないのか、未来人はタイムマシンを発明したのか、超能力ってのは具体的にどういう能力か。 そんなハルヒの話をもっぱら聞き役時々突っ込み役に徹して朝の時間を過ごす。 後半の3つの問題については、むしろ俺の方が語れることが多ってことはもちろん秘密だ。 朝比奈さんの卒業が控えているにもかかわらず、その話題は出さない。 おそらく、不安とか悲しみとかを意識的に避けているのだろう。 いつかは直面しなくてはならないんだけどな。 話はいつも文芸部室まで持ち込んで、教室に移動して朝のHRが始まるまで続く。 同じテーマの話題なのに、毎回違う話が出来るってのは一種の才能だな。 芸人にでもなればいい。俺は笑えんが。 まあでも、そんなハルヒを眺めながら過ごす朝の時間ってのも悪くはないさ。 今日もそんないつも通りの朝だと思っていたのだが── とんでもないことが起こりやがった。 学校に到着して、中庭を歩いているときだった。 正面に見えるのは隣接した中学校で、その向こうは山だ。 住宅開発もここまでだったらしい。つくづくなんて学校に通っているんだ。 その正面に見える山の上に、なにやら光る物体が見えた。 いくら早朝だからって、もう7時にもなるので外はそれなりに明るい。 星が見えるって時間帯ではない。この季節は明けの明星が見えるのか? 何だ? 超新星爆発か!? そう思っている間に、その物体は輝度を増し、あっという間に山の中に姿を消した。 ドォーーーーーン 遠くの方でそんな音が響いた気がした。 突然、しかもあっという間のことにしばらく呆気にとられていた俺は、ハルヒの声で正気に戻った。 「キョン!! 今の見た!? 何なのかしら!!」 100Wの笑顔を俺に向けて聞いてくる。まだ頭が回らずにいた俺は 「わからん」としか言いようがない。 「そうよ、UFOよ!! それしかないわ!! きっと裏山に墜落したのよ!!」 ちょっと待て! UFOだって? そんなわけあるか!! 「キョンも見たでしょ! 間違いないわよ! きっと侵略者ね。運転誤って墜落したのよ!」 UFOの操縦を運転と言うのかどうかという突っ込みはおいといて、とりあえず落ち着け! 「探しに行くわよ!! こんなチャンスは滅多にないんだから!!」 「おい、学校だろ!」 「そんなのどうでもいいわよ! いいからキョンも行く!!」 俺の手を強引に引いて歩き出すハルヒを、俺は何とかとどめた。 「あんな山に行くなら鞄が邪魔だ。登山道もないんだぞ。とりあえず部室に行こう」 果たしてあれがUFOだったのか何だったのか、俺にはさっぱり分からない。 UFOの可能性もある。いや、高い。なんせハルヒだからな。 ハルヒがそろそろ普通の毎日に飽きて何かしやがった可能性がある。 でなきゃあんな近くに落ちるか? しかも、運良く人家のないところだ。出来すぎてる。 何とか長門に連絡できないか? しかしハルヒの目の前では出来ない。 俺が思案していると、ハルヒに怒鳴られた。 「こらぁ! ボサッとしてない! 宇宙人が逃げて行くかもしれないじゃない!」 UFOだったとして、あの速度で落下して宇宙人が無事だとは思えないのだが。 「宇宙人なんだから助かる技術くらいあるでしょ! いいからサッサと行く!!」 部室に行くことだけは何とか同意してくれたハルヒは、俺のネクタイを掴むと走り出した。 何とか鞄を部室に置くことが出来た俺たちは、裏山探検隊を結成することになった。 隊長:涼宮ハルヒ 隊員:俺 以上。 ……無事に帰ることを祈っていてくれ。 「バカ言ってないで、張り切って行くわよ!!!」 ハルヒは部室でご丁寧にも「隊長」と書いた腕章を用意すると直ぐに飛び出して行った。 せめてSOS団が揃ってからにして欲しかったよ。やれやれ。 俺たちが見たのは『山に落ちた』という事実だけだ。 むやみに山に入って見つけられる訳もない。 歩き回っても見つからずそのうち諦めるさ、と思っていた。 いや、見つからないでくれと祈ってさえいた。 しかし、あれだけ派手に落ちたのに誰も騒いでないのは何故だろう。 これこそ、ハルヒの力かもしれない。 自分が第一発見者じゃなきゃ気が済まないだろうからな。 足場の悪い山道──いや、道ですらないな──を上っていく。 下草も刈っておらず、木の枝を避けながら歩くのは非常に骨が折れた。 そんな道を、ハルヒは物ともせずにずんずん進んでいく。 いつぞやの朝比奈さん(みちる)との登山とは大違いだな。 ハルヒなら、ずり落ちて俺が支えてやる何てことは逆立ちして登ったってないだろう。 いや、さすがのハルヒも逆立ちして登山なんて無理か。 「おっかしいわね。UFOが墜落したなら煙くらい上がってても良さそうなんだけど……」 そんなことをブツブツ言いながらも、ハルヒの表情は生き生きとしている。 爛々と輝かせた瞳には、全宇宙の星を内包しているかというくらいだ。 そんなハルヒの横顔を見ながら登山していると 「うわっ」 見事に足を滑らせた。 「あんたなにやってんのよ!」 ハルヒは俺をどやしつけながらもケラケラと笑っていた。 俺の醜態を見てそんないい笑顔するなよ。 あー 制服が泥だらけだぜ、畜生。 しかし、そんなハルヒを見ていると、さっきからの疑念が膨らんで行く。 本当にUFOなのか? お前がやったのか? ハルヒ。 しばらく歩いた後、ありがたいことに前半の疑念は晴れることとなった。 目の前が少し開けた。そんなに広くはない。 その真ん中に、直径2m程のくぼみが出来ていた。木の枝が散乱している。 掘り返されたような土肌は新しい。 そして、そのくぼみの真ん中に、明らかに周りの地質とは異なる黒い石が落ちていた。 「何これ?」 不思議そうな顔をしてハルヒが呟いた。 「おそらく、隕石だ」 果たして、人間が隕石の落下を目撃し、それを発見してしまう確率ってのは一体どれくらいのもんだろう。 宝くじ1等当たるより低い気がするぞ。 UFOの墜落を見る確率よりは高いだろうが。 俺は1つ溜息をつく。ここでいきなり第三種接近遭遇なんてことにならなくて良かった。 どっちが捕獲されるかはわからんが、下手すりゃ第四種だ。ハルヒなら捕獲しそうだな。 俺はすでに第三種接近遭遇は済ましてるけどな。 UFOは見ていないが。 宇宙人に殺されかけたのは、さて第何種と言っていいんだろうな。 ハルヒはクレーターの真ん中に近づくと、地面に半分埋まった黒い石を眺めた。 「隕石かぁ。実は小さいUFOってことはないかしら?」 しかしどう見ても石だった。 「でもこれも凄い発見よね! もしかしたら石じゃなくて地球外生命体の秘密の道具か何かかもよ!」 ドラ○もんかよ、じゃなくてしまった! そっちの可能性があったか! 普通なら寝言は寝て言えと片づけられる発言も、ハルヒが言うとシャレにならん。 やはり長門に連絡を取ってみるかと考えていると、ハルヒは無防備にその石を手に取った。 「おい! むやみに触るな!」 声をかけるのが遅かった。 ハルヒがその石を拾って立ち上がったとたん── その場に倒れた。 「おい! ハルヒ!! しっかりしろ!!!!」 何があった? いくら呼んでも目を開けない。 ハルヒを抱き起こして揺さぶってみる。 さっきまであんなに元気だったのに? ハルヒに何が起こった? 頼む、目を開けてくれ! すまん。先に気付くべきだった。 今回のことはハルヒ絡みか、さもなければ宇宙人絡みか。 何かある、とうすうす気がついていたのに、俺はハルヒを止めなかった。 「ハルヒ……!」 気がつくと、俺はハルヒを抱きしめていた。 畜生、本当に何が起こった。 いや、落ち着け。 原因は十中八九あれだ。あの隕石。 だったら俺にはどうしようもない。助けを呼ばなくては。 ようやく長門に電話することを思い出した。 『……』 いつもの無言で出てくれた。 「もしもし! 長門! 助けてくれ!」 相変わらず無言だが、構わずに続ける。 「今学校の裏山にいる。隕石が落ちたらしくてハルヒと捜していた」 『午前7時4分、地球の重力にとらえられた落下物を確認』 「その隕石をハルヒが触ったとたんに倒れちまった。意識が戻らねぇ」 『……そちらに行って確認する。待っていて』 電話は一方的に切れた。 と思ったら、長門がいた。 「長門!? どうやって来た!?」 聞いても俺に分かる答えが返ってくるはずもないのだが、一種の瞬間移動らしい。 量子変換がどうたらと言っていた気がするが、すまん。さっぱりわからん。 本当に何でもありだな。時間も凍結出来るこいつだ、空間移動なんて朝飯前だろう。 その長門はしばらくハルヒをじっと眺めた後、ハルヒの手にある隕石を眺めていた。 何とかその表情を読み取ろうとして、俺は不安になった。長門が1ミリほど顔をしかめた気がした。 「緊急事態」 その一言で、俺は目の前が真っ暗になった気がした。 「しっかりして」 長門の声で我に返る。 「涼宮ハルヒを学校へ。部室に行く」 いつになく緊迫した声で──と言っても俺にしか解らないだろうが──俺に言った。 「わかった」 どのみち俺に出来ることはない。 ハルヒを背負うと歩きにくい山道をそろそろと下りていった。 今思うと長門に任せた方が早く下りられたのだが、俺はハルヒを誰かに任す気にはなれなかった。 長門は誰かに電話をしていた。おそらく古泉と朝比奈さんだろう。 学校に着くと、校門で古泉と朝比奈さんが待っていた。 登校中の生徒も多く見られるが、気にしちゃいられない。 「直ぐに救急車とタクシーが来ます。部室ではなく病院に行きましょう」 そう言ったとたん、救急車とタクシーが現れた。どこかで待機していたのかもしれない。 ストレッチャーにハルヒを乗せ、俺も付き添いで救急車に乗り込んだ。 救急隊員は、やはりというか多丸兄弟だった。 「ハルヒ……」 手を握っても、握り返されることはない。 早く長門の説明を聞きたかったが、ハルヒの側を離れたくなかった。 おそらく古泉と朝比奈さんは、タクシーの中で状況を説明されているだろう。 やがて救急車は見覚えのある病院に着いた。これは予想の内だった。 『機関』なら、ハルヒに対しては出来る限りのことをするだろう。 驚いたことに、ハルヒは医師の診察を受けず、直ぐに病室へと運ばれた。 「診察はしないんですか?」 側にいた多丸(兄)さんに聞くと、そういう指示だと言う。 不思議に思っていると、長門が来て言った。 「診察は無意味。涼宮ハルヒは病気ではない」 2.レトロウイルスへ
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873 この名無しがすごい! sage 2010/10/17(日) 23 03 31 ID g63oEVpf 佐々国●書き分け企画倒れにしたくなーいー!ので、言い出しっぺの法則が音頭とります。 目的はスレの活性化及び新たなSS書き手の発掘、既にSSや小ネタ書いてる人は更なるスキルの向上! 基本に立ち返り、 785の意見を容れようと思います。憂鬱冒頭3行のキョンのモノローグをそれぞれのキャラ風に書き換えましょう。 佐々木さんの一人称・内心も個人の解釈にお任せします。 投下期間は21日木曜0時から24時まででやってみたいと思います。初っ端で何事も手探りですがぜひ揃ってご参加ください。 875 この名無しがすごい! sage 2010/10/18(月) 06 29 50 ID jZqfmjjw おはようございます 一日一告知、Let s書き分け佐々国● 目的はスレの活性化及び新たなSS書き手の発掘、既にSSや小ネタ書いてる人は更なるスキルの向上! 第一巻、涼宮ハルヒの憂鬱冒頭のキョンのモノローグ 『サンタクロースをいつまで信じていたかなんてことはたわいもない世間話にもならないくらいのどうでもいいような話だが、それでも俺がいつまでサンタなどという想像上の赤服じーさんを信じていたかと言うとこれは確信を持って言えるが最初から信じてなどいなかった。』 を、それぞれ佐々木、国木田、古泉風に書き換えましょう。 佐々木さんの一人称・内心も個人の解釈にお任せします。 投下期間は21日木曜0時から24時まででやってみたいと思います。初っ端で何事も手探りですがぜひ揃ってご参加ください。 937 書き換え企画参加 sage 2010/10/21(木) 00 05 24 ID 6nv1XoMj 佐々木さん サンタクロースをいつまで信じていたかなんてことはたわいもない世間話にもならないくらいのどうでもいいような話だけれど、 それでも私がいつまで想像上の赤い服を着た聖人の存在を信じていたかと言うとこれは確信を持って言えるが最初から信じてなどいなかった。 国木田 サンタクロースをいつまで信じていたかなんてことはたわいもない世間話にもならないくらいのどうでもいいような話だけど、 それでも僕がいつまでサンタという想像上のプレゼントを配り歩くおじいさんを信じていたかと言うと、多分最初から信じてはいなかったように思う。 古泉 サンタクロースをいつまで信じていたかなんてことはたわいもない世間話にもならないくらいのどうでもいいような話だ。 が、それでも僕がいつまでサンタなどという想像上の赤い服の老人を信じていたかと言うと、これは確信を持って言えるが最初から信じてなどいなかった。 939 1/2 sage 2010/10/21(木) 19 11 24 ID 66CcKUp5 KNKD サンタクロースをいつまで信じていたか、というのは他愛ない世間話程度の話だろうけど、 僕がいつまでサンタという微笑ましい存在を信じていたかというと、 思い返すに、幼稚園時代から薄々と気づいてはいたように思う。 ただ、両親が割と凝り性で、大きな靴下模様の包装だったり、僕の欲しいモノのリサーチを ずいぶん熱心にやってくれていたおかげで、サンタクロースの真偽などには頓着せず、 ただただ「朝目が覚めたら欲しかったおもちゃが枕元にある日」として、ずいぶん長いこと 楽しんでいたように思う。その点、両親にはとても感謝しているよ。 ● サンタクロースをいつまで信じていたか、などといったことは、 涼宮さんを待つまでの間に、彼と交わす話題がない時にふと思い出したように 投げかけてみる程度のさして意味のない話題ですが、 それでも強いて僕がいつまでサンタクロースという都合のよい虚構を信じていたかと言うと、 ……おそらく、かなりはやい時期から分かってはいたものの、それでも心のどこかに 「サンタさんはたまたま自分の所に来てくれなかっただけで、きっと存在しているんだ」 と信じたい部分は残っていたように思いますね。 まあ、実際問題として、サンタが実在した場合、僕の役回りは、 サンタでも、サンタからプレゼントをもらう少年少女でもなく、 サンタが子供たちのところに行くために、万難を排して世界中を一晩で飛び回る、 トナカイもしくはそのソリというあたりなんでしょうけどね。 940 2/2 sage 2010/10/21(木) 19 13 40 ID 66CcKUp5 佐々木さん サンタクロース? 君は今でも信じているのではなかったのかね? くっくっ。 まあそれは措くとして、サンタクロースの実在をいつまで信じていたか、という事は、 おそらくキリスト教の歴史を紐解く年齢になれば皆通り過ぎてしまう哀しい成人儀礼なのだろうけれども、 日本という非キリスト教文化でありつつ、キリスト教の風習が浸透した国においては、 主に小学校高学年から中学生にかけての、「自分の大人ぶりを吹聴したくて違いに背伸びしあう」 年代の話題として、よくやり玉に挙げられるものなのだろうね。 もう一回りすれば、そうした「子供だった自分」「少し成長して大人ぶろうとする自分」の両方を、 微笑ましく回顧できるのだろうけれど、なにぶん思春期の成長過程において、そうした背伸びも 必須のものなのかもしれないね。 キョン、だから無理に「自分は信じていなかった」とアピールせずとも、そういう話は時間がたてば 幼い頃の良き思い出になるのだと思うよ。 え? 俺のことはいい? 僕の経験を語れ? ふむ、さて僕はどうだったかな。 何せ僕の家には煙突はないからね。 深夜に世界中の子供の部屋に煙突から侵入する赤服のおじいさん、 という確固としたイメージは知っていたけれど、 それと、漠然と両親がケーキとプレゼントをくれる日だという了解が、 あまり強くは結びついていなかったように思うね。 何と言うべきかな、「サンタさんという不思議な存在がいるかもしれない」と漠然と 思ってはいるものの、それと「自分の家にプレゼントがくる」ということがあまり結びつかずに、 ただ「そういうものなんだ」と理解していたと言えばいいかな? 居てくれれば面白いけれども、居なくとも自分の生活に何か変化があるわけではない、 そんな認識かな。 無難でつまらないかね? 君のご期待に沿えないのは残念だが、僕は常識的な人間だと自負していたからね。 え? 過去形なのは何故かって? ふふ、キョン。君はやはり良い聞き手だね。 最近は、僕はこう思うんだ。 以前話した『サンタクロースは実在するのか』というアメリカの新聞記事の話ではないけれど、 そうしたものが「存在してくれているのかもしれない」と思うことは、 それだけ人の心を豊かにしてくる。 それこそがサンタクロースの『存在』する仕方であって、 プレゼントがあるかないかだけでその存在を決めつける必要はないんじゃないかってね。 だから誰かに聞かれたら、僕はこう答えるんじゃないかな。 『実はね、ヴァージニア、サンタクロースはいるんだよ』とね。 特に、君のような人が質問してきた場合はね。 ……ああ、「何で俺?」という顔はしないでいいよ。 君が理解しないことも折り込みずみだ。そういう君が傍にいてくれたからこそ、 僕はこう思えるようになったのだからね。 くっくっ。
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第一章 新しいクラスが発表されるのは始業式の後なのでもちろんここで言う教室というのは1年のときの教室である。 ハルヒはもう教室で憂鬱げなというよりは疲れているような顔を浮かべていた。 どうかしたのか?と聞いてみると「何でも無いわよ。」と言い返されたところで元担任の岡部が入ってきて体育館に強制連行された。 入学式に劣らないテンプレートな始業式は幕を閉じた。 とうとう新クラスの発表である。 この時、俺はハルヒと一緒のクラスになるのは確定だと思っていたので谷口か国木田でも何でも良いからまともな知り合いと同じクラスになれと祈っていた。 そして新クラス発表終了後俺は唖然としていた、なんとハルヒと同じクラスにならなかったのだ、ありえない。 谷口や国木田と同じクラスになれたのはよかったのだが… 俺の頭の中では?がありえないぐらいに大量発生していた。 俺は新クラスでの自己紹介を去年した自己紹介を適当に変えて終了し、何故ハルヒと同じクラスにならなかったのかホームルーム中考えていた。 結果から言うとまったく理由はわからなかった。そしてホームルームが終了しあっという間に放課後になった。 そしていつものように部活をしに…正確に言うと団活をしに文芸部室に向かった。 最初は長門しかいなかったのだが、ハルヒ、古泉、朝比奈さんと続いて部室に来て、 俺と古泉は普段道理ボードゲームをし、朝比奈さんお茶を入れてくれ、長門は読書、そして団長様は不機嫌そうにネットサーフィン。 学校は午前中までだったので大体3時ごろに解散した、そして俺は不本意ながら下校途中の古泉に声をかけた。 聞くことは決まっている。何故ハルヒと同じクラスにならなかったのか、 すると古泉は「僕にもよくわかりません。前に涼宮さんの能力が弱まっているかもしれないと言ったでしょう?それが関係しているのかもしれない。 それに気になることがあるんですが…きっと関係ないでしょう。それにあなたもわかってるでしょうが今からアルバイトに出かけなければ、では」なんて気になることを言いやがるんだ。 そして古泉と別れた後、一年生の新入部員(正確には新入団員)のことを考えていた。 今日は始業式なので1年生は来ておらず明日から授業なので明日は何が何でもハルヒを止めなければならない。 何かいい言い訳が無いか考えていた。 もともと頭が言い訳でもないのにハルヒを言いくるめる言い訳を考えなければならないとなると至難の業である、結局寝る前まで考えたが結局何も浮かんでこなかった。 そして翌日の放課後である、ハルヒは案の定SOS団を宣伝しにいこうと言い出した。 俺は苦し紛れに「やはり最強の団というのは少数精鋭のほうが良いんじゃないか?」といってみた。 そしてハルヒはなんと「そうね、わかったわ。」そう答えたのである。 なんということだろう熱でもあるのか?といいたくなるような返答をよこした。 どうせ俺の言うことになんか聞く耳持たずで「あんたは紙を印刷してきなさい」なんていわれるもんだと思っていた。 そして俺の発言により部活は普段通りに行われた。 後で聞いた話だが古泉によるとこの一件で閉鎖空間は出来なかったという やはりハルヒがおかしい。 もちろん何故ハルヒがおかしいのか俺に知る術は無くまさかハルヒ本人に聞くほど俺も無粋ではない。 とりあえず様子を見てみることにした。 そしてこの状況が一ヶ月続きゴールデンウィークがあけた後、ハルヒがSOS団結団1周年を記念しパーティーしようと言い出した、これには反対する理由が無い 場所は事情を聞いた鶴屋さんが自宅に招いてくれるという、なんと言う太っ腹な人だろうか。 SOS団ができた日は平日なので部活が終わった後鶴屋邸で予定通りパーティーが催された。 なんつう豪勢な食事だろう、正直こんな団の一周年パーティーにはもったいないレベルである。 飯を食い終わった俺たちはボードゲームやら王様ゲームやらで盛り上がっり10時ごろ解散となった。 これでハルヒも少しは元気を出してくれればいいとそんなことを考えていた。 翌日ハルヒは金棒を拾った鬼のように元気になっていた、全くこいつは心配かけやがって…やれやれ。 数日後、俺は長門に呼び出された。 いきなり電話が鳴って突然来て欲しいと、 長門は言った「すでに情報統合思念体は自立進化の糸口を見つけた、本当は私はここにいなくてもいい、だが私の意志で今を生きている。 情報統合思念体も認めてくれた。 最近、涼宮ハルヒの能力が衰えている。あなたもそう感じてるはず、 もし涼宮ハルヒの能力が完全に消えた時、敵対する情報生命体のインターフェイスが私たちをやつ当たりと口封じで始末しにくるかもしれない。 そうなれば最後、恐らく人類は滅びる、でも1つだけ方法がある。 私のインターフェイスとしての力をすべて使い敵対する情報生命体のインターフェイスの全てを消滅させる、 もしかしたら敵対する情報生命体自体にダメージを与えることもできるかもしれない、だが実行すれば地球は半壊し人類は半分滅び、私は普通の人間となる、とても危険、これは最終手段。」 勿論長門のことだからこれが冗談なわけが無い、えらくまずい、まるで変な電波を受信しているSF作家の考えそうな話だ。 長門の家から帰る途中、見知った人に会った、部室専用のエンジェル、誰であろう朝比奈さんだ。 聞くところによると朝比奈さんは俺に話があったそうで長門の家から帰る途中を狙ったらしい。 古泉といい朝比奈さんといい俺の生活は筒抜けなのか?全く なんと朝比奈さんはこういった、「キョン君も気づいてると思うんですが涼宮さんの力が弱まっているんです、 その影響で今の時代より4年前まで戻ることが出来るかもしれないんです。ですがまだ不安定で…でも近い未来それが可能になるかも…」 俺は割って入って「よかったじゃないですか!!朝比奈さん。」と言った。 「でもそれが可能になっちゃうと私は…」と朝比奈さん。 そうだった全く忘れていた、朝比奈さんというかぐや姫はもはや月に帰る前のというところまで来てしまった。 「大丈夫ですよ朝比奈さん、きっと何とかなります。」なんて意味のわからないフォローを入れてしまった。 一体全体何とかなるってのはどういう意味で何とかなるのかおれ自身に聞きたいところだ。 朝比奈さんはいつぞや聞いたのとは少し違うトーンで「キョン君…今日は話を聞いてくれてありがとう」と言って走りながら去っていった。 この分じゃ古泉からも何か重大な話を聞かされるかもしれんと思っていたがそういう気配は全く無かった。 ハルヒも元に戻り普通(と言っても宇宙人や未来人や超能力者に囲まれたとんでもなく非日常なのだが…)に戻り7月に入った。 第二章
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角膜に映しだされている光景を、俺は夢だと思いたかった ハルヒと朝比奈さんが …… 血まみれで伏しているというのは 一体どういう冗談だ…? 気付くと俺は二人の前にいた 考えるよりも先に体が動いてしまったらしい 「大丈夫かよ!?おい!?!しっかりしろ!!!!!」 「キョ…キョン…!!みくるちゃんが…!!みくるちゃんがあ!!!!」 「しゃべるな!!お前だってケガしてんだろ!!?」 「違う…!!あたしはケガなんてしてない!!…みくるちゃんが…あたしを…あたしをかばって…!!!!」 …… え? じゃあ、ハルヒの服にべったり付いているこの血は何だ? …… 全部…朝比奈さんの血…… …!? 「う…ぅ、ぅぅ……!」 悲痛な様で喘ぐ…彼女の姿がそこにあった 「朝比奈さん!!!!しっかりしてください!!!!…朝比奈さん!!!!」 「ょ…ょかった…すず…涼宮さんがぁぶ、無事で…!」 「朝比奈さん!!?」 「わた…し…やくにた…てたかな…ぁ…ぁ…!」 理解した 彼女は秒単位という時間の中で自らハルヒの盾となった あのとき奴の一番そばにいた…彼女は 『ねえキョン君…私って本当にみんなの役に立ってるのかな…?』 つい先ほどの彼女の言葉が頭でこだまする 朝比奈さん…あなたは…そこまで思い悩んでいたんですか…!? 「あ…あたしのせいだ…!!あたしがボーっとして動こうとしなかったからみくるちゃんが…!! あたしのせい…あたしのせいでみくるちゃんが…っ!!いやあああああああああああああ!!!!」 頭を抱え絶叫しだすハルヒ 「よせ!!ハル」 言いかけてやめた。ふと、気付いたからだ…俺の横へと立っている人物の存在に。 「あなたは涼宮ハルヒを連れ、ただちにこの場を立ち去るべき。周囲の急激な悪化により 彼女の精神は極限状態。これ以上の錯乱は彼女の自我そのものを崩壊させる。 神としての記憶を覚醒しかねない極めて危険な状況。」 長門… …… …!! 今の俺に長門の声は届かなかった 「長門…!!お前…!!」 気でも狂ったのか、俺は長門に掴みかかっていた。 「…銃で必死に迎撃してくれてた古泉と違って…お前は一体何をしていた!? お前なら…!!今の攻撃からみんなを守ることなど造作もなかったはずだろう!? …なぜそれをしなかった!?答えろよ長門ッ!!!!答え」 頬に鈍い痛みが走った 俺は古泉に殴られた 「てめえ…!何しやがる!?」 「あなたこそ…こんなときに何をやってるんです!?涼宮さんを連れてただちに逃げろと… 今長門さんに言われたばかりでしょう!?どうしてそれに従おうとしないんです!?」 「お前…!!!今にも死にそうな朝比奈さんは無視か!?それに長門は…!」 「おいおいおい、九曜さん。ちょっとやりすぎじゃ?死人がでそうな状況なんだが。」 「…関係のない人に重傷を負わせてしまったぶん多少の罪悪感はありますが…ま、仕方ないですね。 ある意味当然の報いですよ。なんせ、私たちは問答無用で先ほど殺られそうになったわけですから。」 「-----------身の程を-------------------------------知るべき」 炎上した隣家の方角から歩いてくる… 不快な言葉を発する三人組が… …… そして、俺はこいつらの顔を知っている 未来人藤原 超能力者橘京子 天蓋領域周防九曜 …藤原。やっぱりてめえらの仕業だったわけか…! 「…長門さんと同程度か、それ以上の力を有する周防九曜…。天蓋領域という名の化け物に 彼女は…長門さんは情報操作をかけられ、一切の身動きがとれない状態でした。」 !! 「それでも彼女は抑圧されてもなお、力を行使し被害を最小限にとどめました… 朝比奈さんを助けることが叶わなかったのは…彼女の力が不完全だったためです…。 もちろん、僕の力量不足でもありますがね…。逆に、その不完全な力さえもなければ今頃僕も、 そしてあなたもタダではいられなかったでしょう。最悪の場合死んでいたかもしれません。」 …ッ! …よくよく考えてみれば、長門や古泉が死に物狂いで頑張ってる中、俺は何をしていた?? 自分を守ることで精一杯だったじゃないか…!?いくらハルヒと朝比奈さんとに 距離があったとはいえ…、、、、そんな俺に、長門を批判できる資格なんかない…!!! 「長門…俺はお前にひどいことを…!本当に申し訳ない!この通りだ…!」 俺は長門に…誠意をもって謝罪した。 「…私が周防九曜に対し後れを取ったのは事実。だから、あなたが謝ることは何一つない。」 「しかし…!」 「私のことはどうでもいい。一刻も早く涼宮ハルヒを連れてここから立ち去るべき。」 …さっきも言われたな。頭に血が上ってたが、確かにそんな覚えがある。 …… ああ、わかってるさ。そうせねばならないほど窮した事態だってことは だが 「朝比奈さんはどうすんだ!!?重体の彼女を放置して、俺とハルヒだけ逃げろってのか!!?」 「…朝比奈みくるは、これから私が全力を尽くして治療にあたる。」 「!確かにお前にならそれが可能だな…だが、あいつらの相手はどうすんだ!? お前が治療に専念する間……、、!!まさか古泉一人に戦わせるつもりか!?無茶だ…! 相手にはあの天蓋領域だって」 「…幸か不幸か、涼宮さんの重度の乱心により…この場は閉鎖空間と化しつつあります。 となれば、僕も超能力者として…本来の力を存分に行使できるようになります。」 古泉… 「わかってんのか!?それでも1対3には変わりねーんだぞ!?」 「…涼宮さんにもしものことがあれば世界は終わりです。あなたもそれは十分承知のはず。」 「しかし…!」 「…以前ファミレスにてみんなと誓ったではありませんか。我々は協力して…みんなで涼宮さんを守る!…とね。」 …こいつは、自分の死を覚悟しているのか?仲間を守るために… …… 長門も同様にそうだろう。 朝比奈さんにしてもそうだ、命を擲ってでもハルヒを守ろうとした。 みんな覚悟を見せつけている 絶対に3人の覚悟は無駄にできない!!!!なら、俺にできることは一つ 「ハルヒ!来い!」 強引にでもハルヒの手を握り、連れて行こうとする俺。 「嫌!!放してよ!!!!放して!!!!みくるちゃんが!!!!! みくるちゃんがああああああああああああッ!!!!!!」 ハルヒもハルヒで相当つらいんだろう…気持ちはわかる。だが、今は我慢するんだ…! みんなの意志を…覚悟を…どうか酌みとってやってくれ!!! そして…みんな… どうか死なないでくれ!!!! 俺は3人に背を向け、ハルヒとともに走りだした。 「…はん、ようやくお喋りは終了か。じゃ、とっととそこをどいてもらおうか。計画に支障が出る。」 「その先にいるターゲットに私たちは用があるんで。早くしないと逃げられちゃいますしね。 それに、閉鎖空間と化したこの場で猛威を揮えるのは…決してあなただけではないってことも どうかお忘れずに。だって、私も同様に超能力者なんですから。」 「それくらい承知の上です。それでも、あなた方が何を言おうと僕はここを通しません…!」 「古泉一樹…朝比奈みくるの治癒がもう少しで終わる。 そのときまで、どうか耐えしのいでほしい。終わり次第、私も参戦させていただく。」 「それは頼もしいですね。ぜひともお願いします。」 …… 「一応忠告はしてあげたんですけど。じゃあ、仕方ありませんね。」 「結局こうなるのか。面倒なヤツらだ…。」 「---------邪魔」 「「はぁ…はぁ…はあ!」」 一体どれくらい走ったのだろうか…、俺たちはすでに息をきらしてしまっている。 行く宛てもなく…ただただ走り続けた。藤原たちから離れることだけを考え…ただただ走り続けた。 轟音爆音が鳴り響く 火の手が上がっている …俺たちが先ほどまでいた場所からだ。 …… ところで、俺にはさっきから妙な違和感がある。市街地を走りぬけていて気付いたのだが… 人一人歩いていない、というのはどういうわけだ?確かに、時刻は夜の10時をとうに過ぎてしまっている。 ゆえに、人通りが少ないのは理解できる。だが、人一人見当たらないのはどう考えたっておかしい。 …これも長門、ないしは周防九曜の情報操作に起因したものなのだろうか? それともさっき古泉が言っていたように、この世界が閉鎖空間と化しつつあるから…? っ! ふとハルヒの手が放れる。酷く塞ぎ込み、その場にしゃがみこむハルヒ。 「もう…あたし…、走れない…!」 「…そうだな…随分走ったし、ちょっと休憩するか。」 「…ねえキョン」 「何だ?」 「そもそもさ…何であたしたちこんな必死になって走ってんの…??」 「……」 「さっきまでさぁ…あたしたちお菓子とか食べながらみんなで騒いでたじゃないのよぉ…!? あれは一体何だったの!!?夢!?どうして…こんなことになってるの…!!?」 「……ハルヒ…」 「この状況は一体何よ!??家が吹き飛ぶわ、破片が飛び交うわ…そのせいでみくるちゃんが…!!」 …ハルヒの疲弊は、どうやら単なる息切れによるものだけではないらしい。 「ち、違う…!!あたし…あたしのせいでみくるちゃんが!!みくるちゃんを助けないと!!」 「落ち着け!!落ち着くんだハルヒ!!気持ちはわかる!!わかるから…どうか落ち着いてくれ!!」 「嫌ぁ…!放して…!みくるちゃんが…みくるちゃんがぁ…!!」 ……、 最悪の状況と言っていい。俺は…どうすりゃいいんだ? 極限状態なまでに錯乱した…今のハルヒに一体どんな声が届くってんだ…?仮にハルヒの立場だったとして、 今頃俺はどうしていただろうか?発狂していたのだろうか?だとして、そんな半狂乱な俺を… 俺はどうすれば救ってやれる??何をすれば救ってやれる!? その瞬間だった 「あ…、ああっ…、……」 卒倒するハルヒ …… …ハル…ヒ? 「ハルヒ!?おいしっかりしろ!!!!大丈夫か!!?ハル」 !? 何だこの揺れは…?地震…??規模こそ小さいが、一昨日見た夢を思い出さずにはいられなかった… …… …冗談がすぎるぜ…世界が滅ぶのは12月23日の段取りだったはず… 今日はまだ12月1日だぞ…!?今日で…終わるのか?何もかも…!? 「今のハルヒの失神は…、まさか!覚醒しちまったのか!?」 …何なんだこの展開は…??ここまで頑張ってきたのに…頑張ってきたってのに、 全部水の泡で終わるのか?そんな…そんなこと…ッ! しかし いくら威勢を張ったところで、もはやどうしようもないことには変わりない。 ここまで【絶望的】という言葉が似つかわしい状況もない。 …… とりあえず、地震は収まったようだが… 俺が放心状態であることに、変わりはなかった… 「た、大変!!涼宮さん…その様子だと、神としての記憶を取り戻してしまったんですね…!」 はて、この場には俺とハルヒしかいないはず。ついに俺も幻聴が聞こえるなまでに廃物と化してしまったか。 「ふう…あなた達のこと探したんですよ…って、キョン君聞こえてますか…?大丈夫ですか!?」 !! 「あ、あなたは…」 「よかった…あなたまでおかしくなってたら、それこそ終わりだったわ…!」 「朝比奈さん!!」 いつしかお会いした大人朝比奈さんが…俺の目の前に立っている。 光明が射すとはこういうことを言うのだろうか? 例えるならば WW2独ソ戦にて、モスクワ陥落を【冬将軍到来】により間一髪のところで防いだソ連。 池田屋事件にて、維新志士らにによる窮地を別動隊の【土方歳三ら】に助けられた近藤勇。 日露戦争にて、物資・国力ともに限界だったところを【敵国の革命運動】により難を逃れた日本。 関ヶ原の合戦にて、数による劣勢を【西軍小早川秀明の裏切り】により勝敗を決した徳川家康。 元寇にて、大陸独自の兵器や戦法で撹乱する元軍を【神風(暴風雨)】により撃退した鎌倉幕府。 キューバ危機にて、米ソによる核戦争を【ケネディ大統領の働き】で回避した当時の世界。 ワールシュタットの戦いにて、【オゴタイ=ハンの急死】により領土を守り切った全ヨーロッパ諸国。 2・26事件にて、不運にも義弟の【松尾伝蔵陸軍大佐の身代わり】で暗殺を逃れた岡田啓介首相。 1940年にて、【杉原千畝リトアニア領事によるビザ発行】でナチスによる迫害から逃れたユダヤ人。 クリミア戦争にて、【フローレンス・ナイチンゲールの必死の看護】により命を救われた負傷兵たち。 …挙げればキリがない。 それくらい、絶望的渦中にある今の俺からすれば…彼女の存在は例文の【】に値する。 「朝比奈さん…俺は…。俺は!どうすればいいんですか!!?」 彼女が今ここにいるということは、間違いなく何かしらの理由があるはず。そうでもなければ、 朝比奈さん小の上司でもある彼女が…自らこの時代へとやって来ることなどありえない。 だとすれば、彼女は知っているはずだ…俺が今何をすべきなのかを…! 「落ち着いてキョン君!まずは状況をしっかりと把握しましょう。それによってあなたの成すべき事も… 決まってくるわ。だから、涼宮さんがこうして倒れるまでの間一体何があったのか…私に話してほしいの。」 話す内容によって、彼女が俺に与える助言もまた違ってくるのだろうか。 俺は…事の一部始終を洗いざらい打ち明けた。 …… 「なるほど…つまり、あなた達は藤原君たちに追われていたのね?」 「はい…そのせいでこの時代に来ていた朝比奈さんが…重傷を負ってしまって…っ!!」 「…それは。さぞかし大変だったのでしょうね。」 「なぜ驚かないんです!?彼女が消えてしまえば、大人であるあなたも消えてしまうんですよ!?」 「そのくらい心得てるわ。でもね…逆に言えば、今大人である私が この場にいる…生きてるってことは、つまり彼女はまだ死んでないってことよ。」 ! 「そして、あなたと涼宮さんがここまで逃げてくるまで随分な時間が経過してる。 ともなれば、私だけでなく長門さんや古泉君も無事だってことが推測できるわね。」 「意味がよくわかりません…どうして長門や古泉までも無事だって言えるんです!?」 「考えてもみて。私は…自分で言うのもなんだけど、戦闘に関しては全くの素人。ゆえに、 殺されるのも容易いわ。万一私の傷が完治したとしても、その後無事でいられる可能性は極めて低い。」 「……?」 「つまり、長門さんや古泉君が死んで私が生きてる状況ってのは 常識的に考えて絶対にありえないのよ。 だってそうでしょう?彼らは私なんかより桁違いに強いんだから。まあ…逆は可能性として十分ありえるけどね。 私が死んで彼らが生きてるっていうのは…自分で言っててちょっと悲しいけど。」 なるほど、確かに理屈に当てはめて考えればそうなる。…実に的確な指摘だった。 「ありがとうございます朝比奈さん。3人が生きてるってことがわかって…俺、安心できました!」 「ふふ、さっきよりも落ち着きを取り戻したようで何よりね。状況の把握は大切に…ね。」 朝比奈さんはこれを見越して話してたってのか…?さすが大人の貫録だ。 「それで藤原君たちは…どんな様子だったの?」 「どんな様子って、俺たちを殺しにかかってきたとしか…。」 「一体誰を殺そうとしていたのかしらね、彼らは…」 「…?ハルヒを除く俺たち全員なんじゃないですか?それからハルヒを拉致でもして… おおかた記憶を覚醒させるつもりでもいたんでしょう。…結果として覚醒しちゃいましたけど…。」 「でも…彼らがあなたたちの殺害、ないしは涼宮ハルヒの拉致を明言したわけではなかったんでしょ?」 …… 彼女は彼らの目論見について、何か知っているのだろうか…? 「…キョン君、今あなたが言った推理は、おそらくはずれよ。」 …はずれ??どういうことだ? 「単に、あなたたちは成り行きで彼らの障壁となってしまっただけ。彼らからすれば、 初めからあなた達は眼中になかったわ。ましてや、殺害など論外ね。」 …?彼女の言っている意味がよくわからない。 「じゃあ、藤原たちの目的は他にあったってことですか??…それは何ですか!?」 「…混み合った話はまた後にしましょう。涼宮さんをこのまま放置したまま話し続けるのも…胸が痛むわ。」 …確かにそうだ。倒れてるハルヒをどうにかせねばなるまい。 「とりあえず、彼女を背負ってこっちに来てくれないかしら?いつまでもここが安全とは限らない。 閉鎖空間と化しつつある現状では先ほどの地震といい、何が起こったっておかしくないもの。」 朝比奈さんの言う通りだ。 …俺は彼女の言うことに素直に従い、ハルヒのもとへ駆け寄った。 「…ハルヒ、大丈夫か…??」 …… 返事がない…どうやら本当に気絶してしまっている。俺は連れていくべく…ハルヒの肩を担ごうとする。 その時だったか ? 背中が妙に熱い …… …何だこの不快感は? いや、不快なんてもんじゃない…これは 生物に 本来あってはいけないものだ 「う…!!あ!!!!が…ああ…っ!!!!!」 猛烈な激痛 混沌とする意識 一体 何が起こった 俺は 背中を手で 触ってみる …… 何だ このどす黒い 赤い液体は 意識が 朦朧とする 「キョン君…さっき私に聞いてましたよね?自分が今成すべき事を。それはね、 死ぬことよ。」 「冥土の土産に教えてあげる。藤原君たちの本当の狙いはね、私の抹殺よ。」 「まさか、涼宮ハルヒを昏睡状態に陥れた犯人が 私だったなんて想像もしなかったでしょ。」 俺 を 立って 見下ろす こいつは 誰? 「まさか、ここまで上手く事が運ぶなんてね。アハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」 俺 を 見下し 笑う こいつは 誰? 意識が途絶えた …… ここはどこだ?辺りが真っ暗で何も見えない……そうか、あの世か。俺は死んじまったのか 2012年12月1日22時23分 俺は朝比奈みくるに刺殺された
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登録日:2010/04/02(金) 23 29 58 更新日:2022/02/01 Tue 18 17 30NEW! 所要時間:約 4 分で読めます ▽タグ一覧 リュウタ 国木田 宣教師 宣教師国木田 松元恵 涼宮ハルヒの憂鬱 男の娘 空気 谷口のオマケ←むしろ谷口がオマケ 驚愕で彼は頑張りました 高校生 『涼宮ハルヒシリーズ』に登場するキャラクターの一人でキョンやハルヒ、谷口のクラスメート。 CV 松元恵 出典:涼宮ハルヒの追想、ガイズウェア、バンダイナムコゲームス、2011年5月12日、(C)2009 Nagaru Tanigawa・Noizi Ito/SOS団 (C)2011 NBGI 名前は名字の「国木田」以外は明かされていない。 身長166cm。 学業は優秀らしく、得意教科は英語・数学・古典・科学・物理。 ちなみに苦手教科は生物・日本史・公民。 『涼宮ハルヒの消失』では風邪で休んだ谷口に水酸化ナトリウムのmol計算などを教えていた。 『分裂』では佐々木を模試での仮想ライバルとしていると語った。 SOS団にはやや協力的で、誘われればホイホイついて来る。 谷口は口では嫌がっているがやはりホイホイついて来る。 当然二人とも利用される身であるわけだが……。 だが彼の活躍の出番はほとんどない。 その上特徴的な名言も皆無に等しいし登場してくる大半は谷口と一緒である。 しかも谷口と違い見せ場も無ければ印象に残る台詞も無い。 さらに谷口や出番の少ない喜緑さんでさえキャラソンを持っているのに彼は持っていない。 ■涼宮ハルヒの約束 登場するが、谷口同様たいした出番は……。 ■涼宮ハルヒの戸惑 ゲーム作りの手伝いをしに出ては来るが、そんなに出番は……。 借りてたカメラを返しに部室に訪れたところ、ハルヒとキョンが絡んでいる写真を撮ることに成功した。 『SOS団がおくる最高にして至高のラブストーリー』でも攻略できない。谷口は攻略できるというのに……。 ■涼宮ハルヒの並列 ハルヒに誘われて豪華客船に。谷口は『ほのかな恋の物語』で美味しい所があったが国木田は……。 しかし国木田は谷口とセットで扱われることを悩んでいるようだ。 鶴屋さんが花婿を探した時も反応せず予選で落ちたり、キョンが婚約者になっても嫉妬したりしなかった。 ……まぁ、驚愕以前だったからだが。 ■涼宮ハルヒの追想 出典:涼宮ハルヒの追想、ガイズウェア、バンダイナムコゲームス、2011年5月12日、(C)2009 Nagaru Tanigawa・Noizi Ito/SOS団 (C)2011 NBGI 今作ではサブキャラにも何らかの活躍が用意されているので国木田も見せ場がある。 『麗男コンテスト』にコスプレして出場て『同性への告白演技』をしたり、 1年5組の一員として『知ったかぶりハムレット』に出演したり、写真を撮ってあげたりと活躍する。 ただ立ち絵が特徴的なポーズをしているため、宣教師国木田とプレイヤーから呼ばれることも。 ■涼宮ハルヒちゃんの憂鬱 影の薄さを指摘されている……。 哀れ……。 更にアニメ版ではセリフのほとんどをキョンに奪われ、一言のみになってしまった。 そんな彼だが、5巻では女装キャラという新たな個性を身につけた。意外と可愛い。 そして6巻では結構出番が多かった物の、8巻で佐々木団が登場してからはまた影が薄くなっている。 二次創作ではその容姿からショタキャラとしてキョンや谷口との絡み(アッー!的な意味で)が書かれるが、 キョンと古泉の絡みの方が主流(?)なのかあまり見かけない。 しかし、サブキャラとしてSS(主に佐々キョン)に出演すると覚醒。 佐々木とキョンの橋渡しをしたり、ナイスアシストしたり、黒木田だったり、橘の機関に所属していたりする。 実は女の子。 という設定な事もある。 以下『驚愕』でのネタバレ 成績的にもっと優秀な高校に行けたはずの彼が北高に入学したのは鶴屋さんに近づきたかったから。 どういう経緯で彼女を知ってそういう気持ちを抱いたかは不明。 国木田「僕の出番を増やす為にも修正をよろしくお願いするよ」 キョン&谷口「無理だな」 国木田「そんなこと無いよ~」 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 国木田の恋愛事情には、うん、驚愕したわ -- 名無しさん (2014-01-27 04 48 07) そのあたりは驚愕で聞くから -- 名無しさん (2014-05-24 15 54 43) ハルヒちゃんのアニメで「がんばれー」しか台詞なかったのは吹いたw -- 名無しさん (2015-09-18 11 07 31) 毛がないのソースはどこですか?! -- 名無しさん (2020-12-06 00 40 21) 名前 コメント
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その日のハルヒは、どこかおかしい素振りを見せていた。 そう言うと誤解を与えそうだから、ひとつだけフォローを入れておこう。いつものハル ヒは傍若無人で1人勝手に突っ走り、厄介事をSOS団に持ち込んでオレを含める団員全 員が苦労する──そういうことを、オレは普通だと思っている。この認識に異論があるヤ ツは前に出ろ。オレの代わりにハルヒの面倒を見る役割を与えてやる。 それはともかくとして。 その日のハルヒは……世間一般の女子高生らしい素振りを見せていた。 例えば、休み時間にクラスの女子たちと普通に話をしていたり、あるいはまじめに授業 を受けていたり、さらには放課後にこんなことを言ってきた。 「ねぇ、キョン。今日の放課後、時間空いてる?」 事もあろうに、あの涼宮ハルヒがオレに都合を聞いてきたのだ。 おいおい、なんだよそれは? まさに青天の霹靂ってやつじゃないか。おまえにそんな 態度を取られると、オレはどうすればいいか分からんぞ。 「ねぇ、どうなのよ?」 「あ、ああ、そうだな……それは部活が終わった後ってことか?」 「あ、そっか。うーん……そうね、大切な活動を中止するわけにもいかないか。終わって からにしましょ。忘れたら罰金よ!」 おいおい、オレはただ「いつの放課後だ」と聞いただけなのに、いつの間におまえに付 き合って時間を潰すことになっちまってるんだ? けどまぁ、そういうのがハルヒらしいってことだろう。そんな長時間でなけりゃ付き合 ってやっても罰は当たらないさ。 それにしても……あのハルヒがしっかりアポイントを取ってまで、いったい何を企んで いるのかね。オレは何かやらかしたかな? 思いつくことは何もないが……いやいや、も しかすると相談事とか? それこそありえないだろ。 それなら……と、あれやこれを考えつつ古泉とゲームに興じていると、長門がパタリと 本を閉じた。運命の時間になってしまった、というわけだ。 「それじゃキョン、下駄箱で待ってなさい」 団長さま直々のお達しにより、オレは下駄箱で待つこととなった。古泉に「おや、デー トですか?」などと聞かれたが、軽やかにスルーしておいたのは言うまでもない。 しばらく下駄箱前でボーッとしていると、ハルヒがやってきた。 ここで「待った~♪」などと言ってくれば「おまえは誰だ?」と言い放てるのだが、そ んなこともなく、代わりに口を開いて出てきた言葉は「ぼさっとしてないで、さっさと行 きましょ」とのこと。やはりコイツはオレの知っているハルヒで間違いない。 「んで? オレの貴重な青春時代の1ページを割いてまで、いったい何の用だ?」 北高名物のハイキングコースを並んで歩きながら、オレの方から話を振ってみた。 「……あんたさ、中1の夏、何してたか覚えてる?」 ややためらいがちに、ハルヒが口を開いた。 「なんの話だ?」 「いいから! 覚えてるのかって聞いてるの」 わざわざオレを呼び出して、意味不明なことを聞いてくる。そんな昔の話なんぞ、覚え ているわけがない。 おれが正直にそういうと、ハルヒは眉根にしわを寄せた。 「そうじゃなくて……ああ、もう! 中1の七夕の日、あんた何やってたの?」 この瞬間湯沸かし器みたいにキレる性格はどうにかならんもんか? それはそうと、中1の七夕だって? 我が家では七夕に笹を出して織姫と彦星の再開を 祝う習慣はないから、いつもと変わらない一日だった……というか、待て待て。なんでそ んな話題を振ってくるんだ? オレはともかく、ハルヒにとっての中1の七夕と言えば……校庭ラクガキ事件の日じゃ ないか。そのことは新聞にも取りざたされた話だから、知っているヤツは多い。けれど、 ハルヒ自身の口からそのことを言い出すのは皆無だ。 「中1の七夕なんて、いつもと変わらない1日に決まってるだろ。そういうおまえは、校 庭にはた迷惑なラクガキしてたんだっけ?」 その詳細を知ってはいるが言うわけにもいかない。誰でも知ってるような話で切り返し たが、ハルヒは不意に立ち止まり、じーっとオレの顔を睨んでいる。 「なんだよ?」 「あんたさ、好きな子とかいる?」 …………おまえは何を言ってるんだ? 「いいから、いるのかいないのかハッキリしなさいよ!」 なんでそんな怒り口調で問いつめられなければいけないんだよ? とも思ったが、ここ でこっちもテンションを上げるのは、ハルヒの術中にハマりそうでダメだ。オレが冷静に ならなきゃ、会話が成り立たなくなる。 「なんで中1の七夕の話から、そんな話になるんだ? そもそも、どうしてそんなことを おまえに言わなくちゃならないんだ」 「それは……」 なんなんだこれは? なんでそこで口ごもるんだ。タチの悪いイタズラかと思えるよう な展開じゃないか。今のハルヒは、そうだな……まるで告白前に戸惑う女の子みたいに見 える。いや、オレにそんな状況と遭遇した経験なんぞないが、ドラマでよくある展開だ。これ でハルヒがオレに告白でもしようものなら、明日には世界が滅亡するぜ。 「…………」 「…………」 ハルヒが黙り、オレも黙る。なんともいたたまれない沈黙に包まれて、かと言ってオレ から話しかける言葉も見つからずにいると。 「もういい」 ふいっと背を向けて、1人早足で坂道を降りていく。その背中には妙な殺気が籠もって いて、とても並んで歩く気にはなれず、ただ後ろ姿を見えなくなるまで見送った。 そんなことがあった前日、どうせ今日には元に戻ってるだろうと登校してみれば、ハル ヒは学校に現れなかった。 あいつが休むとは珍しい。これは別の王道パターン──ハルヒが海外に引っ越す──か と思ったが、朝のホームルームで担任の岡部からそういう話はなかった。むしろ、「涼宮 は休みか?」などと言っていたから、病欠ってわけでもないようだ。純然たるサボリって ことなんだが……そうだな、おかしな事態だ。 あいつは授業中こそつまらなさそうにしているが、無断でサボるようなヤツじゃない。 異常事態だってことさ。 1限目が終わり、オレはすぐに9組の古泉のところへ向かった。ハルヒの精神分析専門 家を自称するアイツなら、何かわかるかもしれん。 「え、登校していないのですか?」 と思ったが、古泉も寝耳に水の話らしい。 「昨日から様子がおかしくてな。それで今日は不登校だろ? 何かあったのかと思ったん だが……おまえの様子を見るに、閉鎖空間もできちゃいないようだな」 「そうですね。ここ最近、僕のアルバイトも別方向の役目が多くて……おっと、これはあ なたには関係ない話ですが。ともかく、今の涼宮さんは安定しているようです」 おまえのアルバイトでの役目なんぞどーでもいいが、その話でハルヒがストレス貯めて たり、妙なことを企んでる訳じゃないことは把握した。 しかし、まったく何もないわけじゃないだろう。 これまでの出来事を思い返し……あんな物憂げなハルヒを見たことは、2回ほどある。 七夕とバレンタイン。 あのときの様子とよく似ている。かといって、今はバレンタインって時期じゃない。も ちろん七夕って日でもないが……しかし、あいつの方から七夕の話題を出したってことは、 思い出さざるを得ないことがあった、ってことだろう。 ジョン・スミスの名前を。 時間的には昼休みか。そろそろ電話をしてもいい頃合いだろうと考え、ハルヒの携帯に 電話をかけてみた。 2~3回ほど留守電サービスに繋がったが、その後にようやく繋がった。携帯からじゃ なくて公衆電話からだからか、警戒したようだ。そりゃオレも見知らぬ番号や携帯からか かってきた電話には出ないがね。 『あんた誰?』 電話応対の定型文を使うようなヤツじゃないが、そういう態度はどうかと思うぞ。 「オレだ」 『あたしに「オレ」って名前の知り合いいないんだけど? つーか、さっきからしつこい し。その声、もしかしてキョン? だったらふざけた真似はやめなさいよ』 「いや……ジョン・スミスだ」 『…………え?』 この名前を口にするのも久しぶりだ。できることなら名乗りたくもなかったが、事情が 事情だしな、仕方がない。対するハルヒも、オレが何を言ってるのか理解できていないよ うだった。それも仕方がない。 「なんつーか……久しぶりだな」 我ながらマヌケな言葉とつくづく思う。毎日その顔を見ておいて「久しぶり」もなにも あったもんじゃない。 『あんた……ホントに、ジョン・スミス? じゃあ、やっぱりあの手紙もあんただったの?』 それがハルヒの物憂げな気分の正体か。 その手紙になんて書かれていたか聞き出すのは難しそうだが、わざわざ「ジョン・スミ ス」の名前を語っているということは、タチの悪いイタズラで済まされる話じゃない。 「その手紙になんて書いてあったかは知らないが、オレが出したものじゃないことは確か だな。今日、学校を休んでいるのもその手紙のせいか?」 『そうだけど……ちょっと待って。ジョン、なんであたしが学校休んでるの知ってるの?』 しまった、余計なことを口走っちまった……。 『あんた、今学校にいるのね? そうなんでしょ! 今から行くからそこにいなさいよ、 逃げたら死刑だからね!』 言うだけ言って切っちまいやがった。やれやれ、これもまた規定事項ってヤツか? だ としたら……そうだな、ここで頼るべきは長門か。はぁ……まいったね。 5限目の終了を告げる鐘の音とともに、教室のドアがぶっ壊れるほどの勢いで開かれた。 そこに、鬼のような形相でハルヒが立っている。 ハルヒは呆気に取られているクラスメイトと教師を一瞥し、ずかずかと教室の中に入り 込んできたかと思えば、オレのネクタイをひねり上げてきた。 「着いてきなさい」 声が低く落ち着いているだけに、逆に怖い。 ずるずる引きずられて教室から出て行くオレを、哀れな生け贄を見るような目で見つめ るクラスメイトの視線が痛かったのは言うまでもなく、教師すら見て見ぬふりをするとは どういう了見だ? 教育委員会に訴えてやろうか。 「協力しなさい」 屋上へ出る扉の前。常時施錠されていてほとんど誰も来ないこの場所で、既視感を覚え るような事を言われた。前と違うのは、今回はカツアゲどころか命を取られそうな殺気が 籠もっているというところだろうか。 「いきなり学校にやってきたと思えば、何に協力しろって?」 「校内に、あたしらより3~6歳年上の見慣れない男が一人、うろついてるはずよ。そい つを見つけて確保した上で、あたしの前に連行してきなさい」 なんつーことを言い出すんだ、おまえは? そもそも校内に見慣れない男がうろちょろ してたら、誰かがすでに気づいてるだろうが。 「あんた、校内にいる教師の顔、全員覚えてる? 一人くらい見慣れないヤツがいたって、 それらしい格好してれば紛れ込めるわ」 まぁ……言われて見ればそうかもしれないな。部室にあった、過去の卒業アルバムに載 っていた教員一覧は4ページに渡っていたわけだし。 「いい? 時間はないの。怪しいヤツを見かけたら、拉致って即座に連絡すること。次の 授業なんかほっときなさい。それと、このことはSOS団全員に通達することも忘れない ように! ところで……あんた、携帯忘れてないわよね?」 「それは持ってるが……」 「ちょっと貸しなさい」 言うが早いか、ハルヒはいきなりオレの上着の内ポケットに手を突っ込むと、携帯電話 を強奪しやがった。どうしてオレはキーロックをかかけてないんだ、と最初に思った時点 で何か間違ってる気がするのは、この際ほっとこう。 「……あんた、昼にあたしに電話した?」 我が物のようにオレの携帯をいじるハルヒは、どうやら着信履歴を真っ先にチェックし たらしい。こいつの旦那になるヤツはあれだ、履歴チェックは欠かさないようにすること を忠告しよう。 オレはどうだって? オレの場合、見られて困る相手に電話をしてるわけじゃないから、 別に気にしないさ。 「かけたよ。おまえが学校に来ないのが気になったんだ。通じなかったが」 「ふーん、そっか」 正直に話すと、それで興味を無くしたのかハルヒは携帯を投げ返し、そのまま猛烈な勢 いで階段を駆け下りて行った。オレはいつぞやのように一人、取り残されたってわけだ。 どうやらあの様子から察するに、あいつの頭の中では校内にジョン・スミスがいるっ てことになってるんだろう。 それはあながち間違いではないが……捜す対象がオレらより3~6歳ほど年上の男とな ると、まず見つかるわけがない。それは言うまでもなく、オレがジョン・スミスだからだ。 そりゃまぁ、あいつが中1の七夕のとき、オレは北高の制服を着ていたし、事実高1だ った。学年まで気づかなかったとして、制服を着ていることから3~6歳ほど年上と思う のも仕方がないことだろう。 しかしなぁ、かくいう張本人を目の前にして、そいつを捜せと言われても困るんだがな ぁ……。捜す振りをして、ひとまず残りのメンツに話だけを通しておけばいいだろう。 そんなことを考えていたら、突然オレの携帯が鳴り出した。 ディスプレイを見れば、 番号非通知。 嫌な予感がくっきり色濃く脳裏を過ぎった。どんな色かと問われれば、黒というか闇色 というか、そんな感じだ。 「……もしもし?」 『午後3時、旧館屋上に』 「は?」 通話できたのは、たった一言。無味乾燥な物言いは、どこかで聞いたことのある声だっ た。けれど、記憶にあるその声とは何かが違う。 どうやら、オレが思っている以上に厄介なことが起きてる。そんな予感を感じさせるに は十分な通話内容だ。 「なにがどうなってるのかサッパリだが……」 宇宙的、あるいは未来的、もしくは超能力的な厄介事に巻き込まれているのは間違いな い。これがせめて、異世界的な異変でないことだけを心から願いたいが……何であれ、そ れでもオレを巻き込むのは勘弁してもらいたいね。 困った事態というのは、ひとつ起こればドミノ倒しの要領で立て続けに起こるもんだ。 オレはそのことを、涼宮ハルヒという人間災害から骨の髄まで染み込むほどに学んだ。 それが今、まさに、この瞬間、立て続けに起こっているわけだ。 ひとまず古泉には事情を説明して『機関』の人員の手配を頼んでおいた。長門にも協力 要請を出しておいた。朝比奈さんは、申し訳ないが最初から巻き込んでいる。 SOS団的に言えば、盤石のフォーメーションで挑んでいると言っても過言ではない。 にもかかわらず、オレが危惧しているのは、オレ自身が上手く立ち回れるかどうかについてだ。 まいったね。「やるかやらないかより、出来るか出来ないかが問題だ」なんて格言があ るのかどうかは知らないが、ここで本音を語ろう。声を大にしてだ。 出来ません。無理です。勘弁してください。 「フォローはする」 心強いコメントだが、どこか投げやりなのは気のせいか? 「そもそも、本来の場所はここじゃなかったよな。公園だっけ?」 「些細なこと。重要なのは事実が現実になるかどうか。情報操作は得意」 そういうもんなのかね。やっちまった……と思って、けっこうへこんでるんだが……。 「それならそれで長門よ、前にも言ったが……もうちょっとマシな形にはできなかったの か? かなり抵抗があるんだが……」 オレは手の中に収まっている黒光りする鉄の塊を、腫れ物にでも触るような手つきで持 て余していた。 「その形状がもっとも効率的。あなたが無理ならわたしがする」 「……すまん、さすがにオレには無理だ」 「そう」 オレは手の中のもの──拳銃を長門に手渡した。自分がやるべきなのだろうが、いくら なんでもこんなものをハルヒに向けて、狙い通りに撃ち抜くなんて、そこまでオレは淡々 と物事を冷静に運ぶことはできない。 「そろそろ時間」 ふいっと視線をはずし、長門は目の前の扉に目を向ける。オレは時計を見る。朝比奈さ んを見習って、電波時計にしているから狂いはない。 時間は午後3時になる5分前。各教室では本日最後の授業が行われている真っ最中だ。 普通なら、歩き回っている生徒なんているはずもない時間だが……目の前の扉が、もの凄 い勢いで開いた。 「見つけたわ!」 ドカン! と音を立てて、旧館屋上の扉が開かれた。 そこに立っているのは、言うまでもなくハルヒ。その形相は、親の敵を見つけた仇敵と 相対する西部劇のガンマンみたいな顔つきだ。 「あなたがジョン・スミスね! ふざけた名前で捜すのに苦労したわ。よくもまぁ、あた しが中1のころから今の今まで、逃げおおせたものね!」 「落ち着けよ。積もる話もあるだろうが、そういう場合じゃないんだ」 「どんな場合だっていうのよ! あたしはずっとあんたを捜してたわ。そのために北高に も来たし、SOS団まで作ったのに……あんたはずっと雲隠れしてて! どれもこれも全 部あんたを捜すために、」 「おいおい、そうじゃないだろ」 ハルヒの言葉を遮って、オレは言うべきことを口にする。 SOS団、つまり『世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団』っ名称は、そりゃ 確かに七夕のときのオレの一声をもじって付けたものかもしれない。そこにどんな思いが 込められていたのかなんて、オレにはとっくに分かっている。 だが、それはあくまでも切っ掛けにすぎない。今ここにいるハルヒがやってることは、 何もジョン・スミスに会うためだけにやっていることではないはずだ。 「今、おまえはけっこう楽しんでるだろ? オレと会うことでほかのすべてを捨ててもい いとは思ってないはずだ。目的と手段が入れ替わってることに、そろそろ気づいてもいい んじゃないのか?」 「何よそれ!? あたしは……」 「言いたいことは分かってるさ。ああ、悪いな」 オレはちらりと時計を見る。そろそろ午後3時。時間だ。 「話は、ここまでだ」 オレの言葉に合わせるように、長門は迷いなく銃口をハルヒに向けて、その引き金を引 いた。 パシュン、と軽い音が響く。その音に胸騒ぎを覚えたオレは、階段を出来る限りの速さ で駆け上った。 そこで目にしたのは、倒れているハルヒと、スーツに身を包んだ一組の男女。その二人 が何者かと考えるよりも先に、オレはハルヒに駆け寄っていた。 正直、血の気が引いた。直後によく動けたものだと、あとになって自分自身に感心したほどだ。 「ハルヒ! おい、しっかりしろ!」 見た限り、ハルヒに外傷はない。ただ、いくら呼びかけても返事はなく、その姿はまる で眠っているように見えた。 「眠らせただけ。それより、動かないで」 まるでどこぞの社長秘書のような出で立ちで、ご丁寧に怪しさ倍増のサングラスまでか けたその女性が、膝を折ってオレを見る。……あれ、この顔はどこかで見たことが……と、 考えるよりも先に、それは起こった。 大袈裟な変化があったわけではない。ただ、オレが駆け込んできた屋上へ通じる出入り 口がなくなっている。場所こそ旧館の屋上ということに変わりはないが、目の前にはどこ にでもいそうな大学生、あるいは社会人的な年代の男女数名が現れていた。 いったい何時の間に、どこからやってきたのかさえオレにはわからない。というか、そ もそも今がどういう状況なのかもわからない。 「悪いが見ての通りだ。ここでドンパチやるのは構わないが……」 ダークスーツに、こちらもサングラスをかけている男が、目の前の相手を前に口を開き、 彼方の方向を指さした。 「鷹の目がここを狙っている」 その瞬間、男と数名の男女のグループの間の地面が、パキン、と爆ぜる。まさか……と は思うが、もしかして今、どこぞから狙撃でもされてるんじゃないだろうな? 仮にそう だとしても、ここから狙い撃てる場所なんて、裏山の傾斜くらいだ。1キロくらい離れて るんじゃないのか? 「さらにここには、なが……こいつもいる。ジョン・スミスの名前を使ってハルヒを引っ 張り出すのは悪い考えじゃないが、できれば二度と使わないでもらいたいね」 男とその敵対グループらしい連中とのにらみ合いがしばし続き──誰と言うわけでもな く舌打ちを漏らすと、連中は次々に屋上の柵を乗り越えて飛び降りていった。 「時空間転移を確認。この時空間からの消失を確認した」 「はぁ……やれやれ。もう二度とこんなことをさせないでくれよ……」 深いため息をついて、男は腰が抜けたようにしゃがみ込む。この二人は……まさかとは 思うが……けれど、そんなバカな話があってたまるか。 「みなさん、大丈夫ですかぁ~?」 がちゃりと音を立てて、いつの間にか下に戻っていた屋上のドアが開かれる。そこに現 れた人影を見て、オレの疑念は確信に変わった。 現れたその人は、オレが何度も会ってる朝比奈さん(大)だった。ここでこんな登場を するということは、規定事項ってことなんだ。それはつまり、目の前の2人はオレが思っ ている通りでいいってことですね? 「ああ……いや、深くは聞かないでくれ。オレのこともだいたい分かってると思うが…… そうだな、古泉が所属する『機関』の上の人間と思ってくれ」 「ちょっ、ちょっと待ってくれ。なんだって!?」 「時間を自由に行き来できるなら、未来が過去において自由に動けるその時間帯での組織 を作っていてもおかしくないだろ。そうでもしなきゃ、ハルヒは守れないんだ」 「ハルヒを……守る?」 「ちょっとキョンくん、喋りす……あ」 朝比奈さん(大)は黒スーツの男に向かってそう言った。「あ」って、迂闊すぎます… …が、今は有り難いね。それで確信が持てた。 やっぱり、この二人は……未来のオレと長門なのか!? 「そいつは禁則事項ってヤツだ。ただ、今回のことでわかったと思うが……まだまだハル ヒ絡みの厄介事は続くってわけさ。同情するぜ」 いやもう、頭が混乱してきたぞ。何がどうなってるのかしっかり説明してくれ。 「それは追々分かるだろ。ハルヒはもうちょっと寝てるだろうから、しっかり介抱してく れ。目が覚めたら今回の出来事は忘れてるはず……だよな?」 未来のオレが隣の……たぶん、未来の長門に確認を取ると、微かに頷いた。 「ああ、あと古泉経由で新川さんにも礼を言っといてくれ。さっきの狙撃はなかなかのも んだったしな。んじゃま、10年後に会おう」 その後のことを少しだけ語ろう。 屋上からの出入り口から出て行った3人の後を追うように、すぐに後を追ったが姿はなく ……長門(大)に眠らされていたハルヒを保健室に運んだオレは、未来からやってきて いたオレたちについて憶測を巡らせた。 今回の出来事は、直接的には今のオレやハルヒに関係のない事件かもしれない。むしろ 未来のオレらに関わる事件が、たまたまこの時間軸に関わりがあったにすぎず、その騒動 に巻き込まれただけのような気もする。 この時間軸で事の詳細を正確に理解しているのは長門だけだろうが、親切に話してくれ なさそうだ。何しろ、オレの未来に直接的に関わってくる話だしな。 未来のオレは「古泉が所属する『機関』の上の人間」だと言った。つまり、オレは将来 的には古泉と同じ『機関』の、それもトップクラスの立場になるかもしれない。下手をす ると、『機関』の現時点でのトップは未来のオレ……なんてことも、あの口ぶりでは十分 にあり得そうだ。もしそうだとしたら、悪いが全力でそんな未来を変えようと足掻くだろう。 しかし未来のオレは、その現実を受け入れていた。そう決断しなければならない出来事 が、今後起こり得るかもしれないが……そんなことは考えたくもない。 「……うん」 「よう、お目覚めか」 「あれ……キョン? あれ……あっ!」 寝起きとは思えない勢いでハルヒは保健室のベッドから飛び起きた。こいつは低血圧と は無縁なんだろうな。 「ちょっとキョン、あの男はどこ行ったのよ!」 オレの首を締め上げて、もの凄い勢いでまくし立てている。おいおい長門(大)よ、今 回の騒動のことをハルヒは忘れてるんじゃないのか? どう見てもしっかりばっちり完 璧に覚えているじゃないか。 「あ、あの男って誰のことだ!?」 「誰って、そりゃ……あれ? えーっと……」 続く言葉が出てこないのか、ハルヒは肝心なところは覚えていないらしい……というか、 ジョン・スミスについて何も覚えてないんじゃないのか? 「なぁ、ハルヒ。真面目に聞くから正直に答えて欲しいんだが」 いまだにオレの首を握りしめている──といっても力はまったく込められていなかった が──ハルヒの手を取り、オレは肝心なことを尋ねようと思った。 それがたとえ、オレの思ってる通りでも違ったとしても、オレとハルヒの今の関係が崩 れる類のものではない。ただ、オレの決心が鈍るかもしれない質問だ。 「おまえ、SOS団を何のために作った?」 「はぁ? あんた何言ってるの。最初に言ったでしょ。もう一回聞きたいの?」 「宇宙人や未来人や超能力者を探し出して一緒に遊ぶことか? 本当にそれだけか?」 当初ならそのセリフで納得も……できやしないが、まぁ、ハルヒならありえそうだなと 思って追求しなかったさ。 しかし、今日この日に至るまで経験したさまざまなことを鑑みて、ハルヒがただその理 由のためだけにSOS団なんて作り出したとは、オレには到底思えない。SOS団の名称に したってそうさ。 ハルヒはただ、ジョン・スミスとの再会を願ってこの名前を付けたんじゃないのか? だからもし、ハルヒがジョン・スミスがオレと知ってしまえば……SOS団はその役目 を終える。それが怖かった。もしそうなら、オレはこいつに「自分がジョン・スミスだ」 などとはとても言えやしない。 「……あんたが何を考えてるか、だいたい分かってるわ」 キュッとオレの手を握り替えし、ハルヒがオレの予想とは違うことを言った。 「最近、みんなと一緒に遊ぶことが楽しくて、本来の結成目的がおざなりになって不安に なってるんでしょ? でも安心しなさい。あたしはまだ、当初の目的を忘れていなんかい ないわ! いつか、必ず、絶対に宇宙人や未来人や超能力者を見つけてやるんだから!」 「本当に……そうなのか?」 「はぁ? 当たり前でしょ!」 語気を強めるハルヒだが、オレはまだ納得できない。 「しかしだな、SOS団の名称が……なんつーか……センスないなと思って」 「うっさいわね! 昔、変なヤツが言った言葉を借りて命名したのよ。あたしのセンスじ ゃないわ」 「そいつを捜すために、名前を借りたのか? つまり、SOS団ってのは……」 「うーん、そりゃ捜したい気持ちはあるし、ちょっとは気になってるけど……ほら、昨日 あんたに中1の七夕のときのこと聞いたでしょ? そのときに会ったヤツが言ってたセリ フでさ。そいつ、なんかあんたに……そうね、ちょっと似てたかも。だからもしかして、 あんたじゃないかって考えたこともあったわ。なんでそんなこと考えたのかしらね? あ り得ないのに」 あり得ないと思ってくれるのは有り難いが、事実その通りで、こいつの勘の鋭さにはと にかく呆れるね。 「でも、それはあくまでも切っ掛け! そもそも、その男は自分は自分で楽しいことして るに決まってるわ。あたしも負けてられないから、名前を借りたのよ! いつかあたしの 前にふらっと現れたときに言『あんたより、あたしのほうが楽しいことしてる』って言っ てやるためにね!」 ああ……どうやらオレは、未来の自分と会って少し混乱していたらしい。よく考えれば、 疑う余地なんでまるでないじゃないか。 ハルヒはSOS団結成の理由を「宇宙人や未来人や超能力者を探し出して一緒に遊ぶこ と」としているが、実際はそうじゃない。 かといって、オレが邪推したように、ジョン・スミスを捜し出すためでもない。 そりゃ、その両方もまったくのウソというわけではなく、心の片隅にちょっとはあった のだろう。だが、ハルヒの心を占めているのは、普通の高校生らしい、ただ純粋に「今の この瞬間を思いっきり楽しみたい」って気持ちだけなんだ。 ハルヒにちょっと桁外れのトンデモパワーがあって周りは騒いでいるが、本人は青春を 謳歌したいだけなんだ。それならオレは、ハルヒ的青春の謳歌に付き合ってやるさ。今ま で散々、周囲に迷惑をかけて面倒を巻き起こしてきた過去に比べれば、どれほどまともで 健全なことか。 それを未来的な策謀や、宇宙人的な思惑や、秘密結社らしい陰謀で潰すのはあまりにも 身勝手な話だ。だからオレは……そうか、だからなのか。未来のオレは、10年経ったそ のときでも、SOS団のメンバーと一緒にハルヒを守ってるわけか。そのために、面倒な ことに進んで首を突っ込んでいるのか。それこそ、願ったり叶ったりだ。 もしかすると、今回の事件はオレにそう思わせるために必要な出来事だったのかもな。 「何よあんた、ニヤニヤと締まらない顔しちゃって」 予想以上の結論に至って満足していたのか、その喜びが顔に出ていたらしい。ニヤニヤ とは、そこまでイヤらしい感じじゃないだろ。 「なぁ、ハルヒ」 「な、なによ」 「これからも、一緒にいてやるぞ」 「ふぇ?」 ……なんでそこで赤くなるんだ? どうして急に力を込めて手を握りしめてくるんだ? 「キョン……それってつまり……ええっと、世間一般で言う告白……のつもり?」 「は?」 待て待て。なんでそういう……そういうことになるのか? もしかしてオレ、素で勘違 いされるようなこと言ってたか? ここは一応、フォローしておくべきか……? 「……つまり、SOS団の一員として、なんだが……いだだだっ!」 物の試しで言ってみたが、瞬く間にハルヒの顔が別の意味で赤くなった。つまり、照れ 方向から怒り方向にシフトして顔が赤くなった……ようにオレには見える。 「……いっぺん真面目に死刑にしてあげようかしらね?」 ハルヒさん、リンゴを握りつぶすような握力で手を握らないでください。その鉄球みた いな頭突きを繰り返さないでください。いや、マジで痛いって! 「あんたには言葉の重みってのを教えてあげる必要がありそうねぇ……覚悟しときなさ いよ!」 妙なスイッチが入ったハルヒを、オレが止めることなんて出来るわけがない。そもそも こいつを守る必要が本当にあるのかどうかも悩むところだ。 これから少なくとも10年は、こんなことが続くのか……やれやれ、まいったね。 だがそれでも、オレはもう二度と冒頭に思ったセリフは口にしないつもりだ。 そりゃそうさ。こんなハルヒの面倒を、今後10年は見守っていられるるヤツなんて、 オレ以外の適任者がいるとは思えない。 なぁ、そうだろ? 〆
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「こんにちはー。あれ?今日はまだ長門さんだけですか?」 「そう。古泉一樹は休み。」 休みってまさかアルバイトかな…? …あれ?長門さん今日はハードカバー読んでない。 「長門さんが文庫本を読んでるなんてちょっと珍しいですね。いつもはすっごく厚いハードカバーだから私には無理そうかな、って思ってたんですけど。どんな本読んでるんですか?」 「・・・読む?」 「え?いいんですか?ならお借りしようかな。恋愛物とかですか?」 「戦闘物。」 戦闘…? これまた長門さんのイメージとは違って驚いた。そういうのも好きなんだ? 「この表紙の女の子が戦うんですか?どことなく涼宮さんと似てるような…。」 「……。」 その後部室に涼宮さんとキョン君が到着し、いつも通りの時間を過ごした。 古泉君が休んでいる事、長門さんが文庫本を読んでいる事以外は、いつも通りの。 今夜私がこの本を読み終えた瞬間、世界は小規模な改変をされる事になる。 ―― 翌日 コンコン 「はーい。大丈夫ですよ。」 「こんちには。ハルヒは少し遅れます。ところで、今日も古泉が休んでるみたいなんですが何か知りませんか? ハルヒの機嫌も悪くはないし、電話しても繋がらないので。ただの風邪とかならいいんですが。」 「徒を追っているのかもしれませんね…。」 「…ともがら?神人の別種かなんかですか?」 「紅是の徒を倒すのがフレイムヘイズの使命なので。」 「ふれいむ、へいず…?なんですかそれ、未来人の敵とかですか?」 「世界のバランスを崩す紅世の徒を狩る者が私達フレイムヘイズ…私は『雁ヶ音の煎れ手』朝比奈みくる。」 「・・・・・・・・。長門、どうなってる。」 「・・・わからない。」 またハルヒの奴がおかしな事始めたか・・・。なんだって…フレイムヘイズ? 長門は知らない、歩くムダ知識古泉は休み、となれば・・・困ったときのgoogle先生。 「40000件…?」 wikipediaへのリンクを開く。 【フレイムヘイズは、高橋弥七郎のライトノベル作品『灼眼のシャナ』及びそれを原作とする同名の漫画・アニメ・コンピュータゲームに登場する架空の異能者の総称である】 「つまり朝比奈さん・・・灼眼のシャナって小説を読んだわけですか?それで影響されたと。」 「炎髪灼眼の討ち手をご存知なんですか?彼女は今どこに?」 ダメだ…すっかりハマっている・・・。 朝比奈さんがまさか高2ではなく厨2だったとは・・・。 遅れてハルヒも到着したが何やら不機嫌な様子。岡部と揉めたか。ご愁傷様、古泉。 ハルヒが到着するまでヒマだった俺はwikipedia、灼眼のシャナの項目を読み漁ったため大筋は把握した。 ハルヒに知られたら厄介な事になりそうだな…この内容は。 ―― 夜 プルルルルルルル 「はい、もしもし。」 「こんばんは。不躾ですが、ここ数日あなたの周りで何か変わった事はありませんでしたか?」 「朝比奈さんが壊れた。いや正確には朝比奈さんに対する俺の夢が壊れた。」 「…よく分かりませんが。無事ならそれでいいんです。ですが、気をつけてください。近々あなたを狙う輩が現れるかもしれません。」 「…勘弁してくれ。機関の方々で何とかできないのか?」 「えぇ、フレイムヘイズは基本的に単独行動なので横の繋がりが薄いんですよ。」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 「…今何つった?」 「え?…あ、いや「薄い」というのは別に頭髪の状態を言っているわけではなくですね・・・」 「そこじゃねーよ!!フレイムヘイズって言ったか今!?お前も…フレイムヘイズとかぬかすのか・・・?」 「言いましたよ。いかにも私はフレイムヘイズ、『赤光の狩り手』古泉一樹です。」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 「分かったもういい・・・全面的にお前らに任せる。」 「お任せを。いざという時携帯電話が命綱になりますので、充電状態には気を配ってください。」 「あぁ心配するな。俺の携帯の充電は午前零時に全回復するか・・・」 俺もかーーーーーっ!!!! ―― 翌日朝 あの2人(俺も?)が同時に影響を受けてるなんて厨2病の一言で済ませられる問題じゃないよな・・・。毎回毎回長門に頼らざる得ない俺が情けない。 でもしょうがないじゃない、一般人だもの。――キョン いや、待てよ。・・・長門に限ってまさかとは思うが、あいつもすでに毒されてるって可能性もあるんじゃないのか? あれこれ考えている内に部室に到着してしまった。 ガラッ 「おはよう、早いな長門。」 「おはよう。」 「朝比奈さんと古泉の様子がおかしいんだが、何か心当たりないか?」 「わからない。」 「そうか。ところで、「灼眼のシャナ」って小説読んだ事あるか?」 「…無い。」 …アイがスイミングしたぞ長門。 「そうか。いや俺も最近知ったんだけどな。ライトノベルって言ったか、ああいう小説にはやっぱりこう無口なキャラが必要不可欠だよなぁ長門。」 「…その意見は正しい。」 「さっき言った「灼眼のシャナ」ってのにもそういうキャラがいてな。俺はそいつが一番好みのタイプなんだ。」 (コクコクッ) 「名前なんて言ったっけなぁー、ヴィ…、ヴィ…」 「ヴィルヘルミナであります。」 「そうそうヴィルヘルミナ。――長門集合。」 「……違う。今のはケロロ軍曹…。」 ―― 「――つまり、まずお前がハマり、古泉に貸したらあいつもハマって学校休んでまで読み漁り、次に朝比奈さんに貸したら案の定、って事だな?」 「…そう。」 「て事はハルヒにはまだなんだな?」 「まだ。しかし、朝比奈みくると古泉一樹、そして私の様子を見る限り、単に小説に影響されただけとは思えない。私が最初に小説を手にした時点ですでに涼宮ハルヒの影響を受けていた可能性も否定は出来ない。」 「…なるほどな。とりあえずハルヒに読んだ事あるか聞いてみる事にするよ。 …で、お前も『なんとかのなに手』とか異名ついてんのか?」 「『万象の繰り手』長門有希。」 …ちょっとかっこいいと思っている自分が、そこにいた。 ―― 昼 「あー、ハルヒよ。ちょっと聞きたい事があるんだが。」 「何よ。団活欠席なら却下よ。」 「違う違う。「灼眼のシャナ」って本読んだ事あるか?」 「なにそれ?知らないわ。」 「フレイムヘイズって単語に心当たりは?」 「はぁ?何なの一体?初耳よそんな言葉。」 「そうか。…で、お前は今何食べてるんだ?」 「メロンパン。」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 待て待て待て。あきらめるのはまだ早い。 単にこいつがメロンパンのおいしさに目覚めただけかも知れないじゃないか。美味いしね。美味いしねメロンパンは。 「時にハルヒよ、もうポニーテールにはしないのか?」 「えっ?…な、何でよ?」 「単純に見たいからだ、お前のポニーテールを。」 「あ・・・う・・・、み、見たいって、どうしてよ?」 「どうしてって、俺がポニーテール好きでお前はポニーテールが似合うからだ。」 「なっ・・・う…うるさいうるさいうるさいっ!!」 ・・・・・・・・確定。 つづく
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まだまだ寒さが残っているがもう菜の花が芽吹く季節になった。 1年程前に結成されたSOS団は右往左往ありながらも無事に続いている。 最近思うのだが何かがおかしい気がする。何がおかしいのか、と聞かれると 俺も困るのだが変なもんは変としか言いようがない。 宇宙人や未来人、超能力者が普通に出入りしているだけで十分変なのだが まぁ、それは置いておこう。そんなこといいだしたらキリがないしな。 こんなことを考えてたのも一瞬でもはや生活習慣の一部になりつつある SOS団のアジト、文芸部室へと足をはこんでいた。 ノックをすると可愛らしい声で返事が返ってきた「あっ、はぁい」 今日も似合い過ぎのメイド服を着た朝比奈さんはにこやかに微笑んで 音を立てているヤカンへと駆け寄っていった。 俺は部室を見まわした。 いつものさわやかな微笑みをうかべた古泉とこれまたいつもの無表情で ハードカバーを読みふけっている長門がいた。 「どうも。涼宮さんは一緒じゃないんですか?」 古泉はチェス盤とコマを用意しながら言った。1回も勝ったことないのに こいつもよくあきないな。 あいつは掃除当番だと言い俺は既に指定席になりつつあるパイプイスに 腰をおろした。 そんないつもの日常に俺は安心しきっていた。 まさかこんなことになるなんてな・・・。 俺は朝比奈さんの煎れてくれたお茶に今世紀最大の幸せを感じつつ 進級テストについて考えていると「どうしましたか?」 古泉が声をかけてきた。 「ちょっと将来のことを考えて暗澹たる気分にひたってたんだよ」 「いやぁ、あなたがそんな顔をしているのが珍しくて恋でもしてる んじゃないかと思いましてね」 それはない。絶対にない。 古泉のクスクス笑いを無視しつつあいつ遅いなぁなんて考えていた。 あいつと言うのはわれらが団長、涼宮ハルヒのことだ。 「涼宮さん遅いですねぇ・・・。」 俺と同じことを考えていたのは俺の天使朝比奈さんだ。 どっからみても中学生か小学生の高学年にしか見えないのだが 実は俺より年上らしい。 まぁ、実年齢は禁則事項♪らしいので本当のところは 知らないが・・・。朝比奈さんが何歳かなんて問題は置いておこう。 最近感じていた違和感も忘れ退屈な日常を過ごしていた。 ただ、今日は何かがおかしかった。 何故なのだろう。ハルヒが部室にこなかった。 次の日俺が心臓破りの坂(命名俺)をのぼっていると後からやかましい 男が歌いながら近寄ってきた。 「WAWAWA忘れ物~っとキョン今日もしけた顔してんなぁ」 お前ほどじゃないよと言いつつ俺は冷たい手に息を吹きかけた。 「それより谷口チャックが開いてるがそれはファッションか?」 「なっ、ありがとな。このままだと変態扱いされるとこだったぜ」 元から変態だろ。 「お前程じゃないぜなんせキョンなんてあだ名で呼ばれるなんて 俺は死んでも無理だ」 うるさい。俺も好きで呼ばれてるわけじゃないんだぞ。 なんて無駄なやりとりをしている間に学校についた。 教室にはいると俺の後ろの席には誰もいなかった。 いつもは俺より早く来ているんだがな・・・。 まぁ心配するだけ無駄だな。前にも遅かったことあったしな。 だが、ハルヒはこなかった。担任の岡部に聞いても連絡はきてない としか言わない。 ハルヒのことが気がかりで授業なんて聞いていられない。 理科の教師が谷口にチョークを投げつけて「おい!谷口!チャック を開けるな!」と言ってたのも聞き流す。 そして4時限目の終了を告げるチャイムが鳴るやいなや俺は部室棟へ 向かった。もしかしたらハルヒはここに泊まってるんじゃないだろうな なぁんてありえもしない事を考えながら、文芸室の扉をノックした。 「だっだれ!?」・・・ハルヒの声だ 「俺だ。それより教室にもこないでここで何してる」 ガチャガチャ・・・鍵閉めてやがる。 「キョン?何かよう?用がないなら帰ってよね」 「いや用があるわけじゃないんだがちょっと心配になってな」 「えっ・・・」 そこでハルヒは鍵を開けて顔を出してきた。 目が赤く少し腫れている。何かあったのか? とたずねると。 「ちょっと親父と喧嘩しちゃってさぁ・・・それで家出してきたの!」 やれやれ。それはいつだ? 「昨日の夜よ?」「ってことは何か?お前は昨日の夜からここにいたのか?」 「そうよ」そこで俺は言葉を失ったね。 ハルヒは笑っている顔を作っているのだが下手っぴすぎる。 笑顔の目の端の方、涙が滲んでいる。 残念ながら俺はそんな顔をしている女性にかける言葉は知らないから お前にかけてやる言葉はないぞ?古泉あたりならかまってくれるかも しれんが。 そのまま沈黙を保っているとハルヒが 「しばらく授業にはでないわ。あと、SOS団は休m」 「ちょっとまった。」 俺はハルヒの言葉を聞き終える前に言った。 「理由はわからんが、とりあえず親父さんも反省してるはずだし 心配もしてるはずだ。だから帰ってやれよ」 「なっ・・・」 何故だかハルヒは悲しそうな表情を作って 「・・・やだ」 泣きながら拗ねている子供のように言った。 やだって・・・。 「キョンの家いってもいい?」 俺が何を言おうか迷っているとハルヒが何を血迷ったか 俺の家に行きたいなんて言っていた。 「あぁ、家に帰るのは夜でもいいが親御さんにあんまり心配 かけんなよ」 「遊びにじゃなくて・・・しばらく泊めなさいよ」 今にも泣き出しそうにしてるハルヒに俺はダメだ・・・とは言えなかった。 それから俺は、他のSOS団メンバーに今日は部室にこなくてもいいと 伝えて俺は魔の坂(命名俺)をハルヒと2人で下っていった。 その間に会話はなかった。沈黙。 そのまま沈黙を保ちつつ家に帰ると妹が 「ハルにゃん!どうしたのぉ?キョン君ハルにゃん泣かしたの? うわぁ~。わ~るいんだわ~るいんだ」 そんな幼稚なことを言っていたがとりあえず無視しておいた。 そして事情をおふくろに説明すると 「ハルヒちゃんなら大歓迎よ。いつまででも泊まっていきなさい。」 「はい!ありがとうございます」おいおい・・・。本当に 何年間も泊まったらどうするんだ?まぁ、困るのは俺だけのようだが。 俺は妹+おふくろの行末を案じつつハルヒと一緒に俺の部屋に向かった。 その間ハルヒは小さく「ごめんね・・・」と呟いたのだが 聞こえない振りをしておく。人間できてるなぁ俺って。 部屋につくなりハルヒの元気は再活動をはじめやがった。 「ねぇキョン!今日の晩御飯は?あと、お風呂にも入りたいんだけど!」 やれやれ、と何度も封印しようと思った語を口にする。 こんな状況でもハルヒは元気な方がいいな。うん。 「風呂は沸いてるから好きにつかえ。晩飯は寿司の出前とるそうだ」 「わかったわ!じゃぁご飯食べてすぐお風呂つかわせてもらうね」 好きにしろ。 俺は3人分くらいの寿司を皿にのせて自室へと運んだ。 さすがのハルヒでも他人の家族の中にはいっていくのは抵抗があるかも 知れないと俺は考えたからだ。 部屋に入ると「遅い!」何て我がままなお客さんだ。 ほらよ。皿を渡して居間に戻ろうとすると 「ぇ?一緒に食べないの・・・」 「戻ろうと思ったが腹が減って動けねぇ。こっちで食べてくかな」 我ながらこれはひどい。 ハルヒは安堵したように吐息をもらした。 「いただきま~す!」 「いただきますっと」 ハルヒは大きく口を開けて寿司を放り込んだ。 うぉ。何故かハルヒが泣きながらバタバタと暴れだした。どうしたんだこいつ? 「キョンお茶!はやくっ!」 どうやら山葵が鼻にきただけらしい。 「バカキョン!遅いわよ!」 持ってきた緑茶を1瞬で飲み干してあろうことか俺の分まで飲みやがった。 それから30分もしないで寿司は空になりハルヒは風呂へ。俺は妹の宿題をやらされていた。 こんなの小学校でならったっけ?俺は習ってないぞ? と独り言をもらしつつ最終ページにある答えを解答欄に書き写した。 そんな作業を5教科分終わらせた頃に妹が俺を呼びに来た。 「ハルにゃんお風呂にいるんだけどぉキョン君呼んできてぇって言ってるの。 あっ、宿題終わったんだぁ。ありがとね」テヘっと舌を出してシャミセンをどこかに つれていった。さらばシャミセン。 しかし風呂で用があるって・・・なんだ?背中あらえとか頭洗えとかだったら 速攻で拒否してやる。理由?俺だって健全な高校生だからだ。 風呂場についた。うちの風呂は曇りガラスのドアなので中は見えることはないが それでも少し変な妄想をしてしまう。あぁくそ。あいてはハルヒだぞ? そんなことを考えつつ俺はドアをノック。 「・・・キョン?」少しこもって聞こえるのは風呂場に声が反射しているのだろう。 「ああ、んで何だ?用ってのは?」 「・・・がないの」ん?なんだって? 「着替えがないの!急に家を飛び出してきたんだもん・・・」 「俺か妹の服でよければ貸すが・・・妹のは無理そうだな」 「まぁ、仕方ないわ。あんたので我慢する」 俺はとりあえず自室に戻りTシャツとハーフパンツを手に取ったが そこで気がついた。下着がないな・・・。残念ながら俺はそういう趣味は ないから女物の下着なんて持ってないんだ。ほっ、本当だぞ? そんな事を考えながらもう一度風呂場へ。 「なぁ。Tシャツとハーフパンツは持ってきたんだが下着はどうするんだ?」 「あっ、考えてなかった・・・。」 やっぱりな。 その後の会話は思い出したくない。 俺が必死にチャリを漕いでいる理由と相違ない。 「キョン・・・下着だけでいいから買ってきなさいよ!」 「何で俺が?」 「だって裸で外出たらつかまっちゃうでしょ」 それはそうだが・・・。それでも俺が女性物の下着を買いに行くのは忍びない。 妹にいかせろと言ったらハルヒは 「妹ちゃんはキャラ物とか買ってきそうで危険そうだもん」 それにコンビニでいいからさとハルヒは付け足し制服のポケットから1000円札を 俺に渡した。「風邪ひいちゃうから速攻で買ってきてね。3秒以内で!」 おいおい3秒って・・・。それでも風邪なんかひかれたら目覚めが悪いので 俺はチャリを漕ぎ続けている。立ち漕ぎダッシュだ。 コンビニの前で急ドリフト。キレイに停めてコンビニへと入っていく。 織物が置いてあるコーナーの横に女性物の下着が売っていた。 色とか大きさは知らないので一番端にあった白いのを手に取った。 そしてレジへ・・・。今までにないドキドキと緊張感。やれやれ。 これは何プレイだ。店員は「738円です」と平坦な声で言ってくれた。 店員は40代くらいのおばさんだ。若い人だったらきつかったな。 ハルヒに渡された1000円札を店員に渡しておつりを貰うまでの時間が かなり長く感じた。まぁ、実際数秒しかたってないんだがな。 それから走ってチャリに向かい、急いでチャリを漕いだ。 行きよりも早いと思われるスピードで家に着いた。 息は切れ切れだ。だが待ってもいられないのでハルヒの待つ風呂場へ。 バスタオルを巻いたハルヒが立っていた。 「遅いわよキョン!すっごい寒かった!」 やれやれ。俺の超マッハダッシュ(命名俺)でも遅いというなら どんな速度ならお前の速いに該当するんだ? 「・・・って」「ん?」「・・・・てけ」 「ああ?」「服きるからでてけ~!」 ハルヒがそう叫んだときこう・・・バスタオルが ハラリっていうかフワっていうかそんな感じにハルヒの体 から剥がれ落ちた。目の前にはハルヒが生まれたままの姿で・・・。 お互いに違う理由で沈黙した。っていうか俺は気を失っていた。 「・・・ッン?・・・キョン?」 ハルヒの声が聞こえる。だが一度寝た俺はそう簡単には起きないぞ? 「このバカキョンっ!団長様の命令に逆らう気?死刑よ死刑。絞首刑!」 目が半開きの状態で真上を見るとハルヒが涙目で俺を殴り起こしていた姿 が目に入った。 サイズが合わなくてブカブカのTシャツ(俺の)とハーフパンツ(これも俺の) を着ているハルヒ・・・下から見ると色々と丸見えだぞ? 「あぁ・・・。なんか見てはいけない物を見てしまった気が・・・」 そう言うとハルヒが顔を真っ赤にして俺の襟を掴んできた。 「記憶から抹消しなさい!宇宙人と契約して!アブダクショーンって呼ぶのよ」 やれやれ。無茶言うなよな。もしアブダクションで長門や朝倉なんかが来たらどうすんだ 長門はいいが朝倉にはトラウマがある。しかももう立ち直れないくらいのな。 ハルヒはそのあともギャーギャーと騒ぎ立てていたが、心配して妹が来たあたりで 「まぁいいわ。不可抗力だったし」わかってんならこんなことするなよな。 やれやれ。まぁこれで大きな問題は解決だ。 「お風呂入ったから何か眠い・・・」 子供の用に両手で目をこするハルヒはすごくかわい・・・何考えてるんだ俺 相手はハルヒだぞ?(本日2回目) 「ああ。じゃぁ妹の部屋にでも布団ひいてやる。」 「何言ってるのよぉ・・・あんたのベット使わせて貰うわぁ・・・」 もう寝そうだ。まだ9時だぞ?俺の妹でさえまだ寝てない・・・ ってこいつ今何ていった?俺のベットで寝るって・・・俺はどこで寝ればいいんだ? 「下に布団ひけばぁ・・・。それとも一緒にねるぅ?」 眠気に負けて投げやりだ。 「んじゃぁ下に布団ひかせてもらうな」「うぅん・・・」 ハルヒは覚束ない足取りで俺の部屋へと向かった。 俺もその後ろを追って自室へとむかった。 部屋に入るやいなやハルヒは俺の枕へ顔を埋めた。使ってもいいが 涎はつけるなよと言い残し俺はさっさと布団をしいた。 まだ眠くなる時間でもなかったので長門から借りていた 【宇宙の原生物】とかタイトルのハードカーバーを広げた。 ハルヒが電気をつけるなとかうるさいのでスタンドライトを使って文字をたどった。 そうして何時間たったんだろうな。本に熱中してしまうと時間の経過が わからなくなる。1人の少女が上から降ってきた。 ここで言う少女は紛れもなくハルヒの事で上と言うのはベットのことだ。 結構派手に落ちたのだが俺がクッション代わりになったらしい。 どうりで腹が今までにないくらい痛いわけだ。 「おい、ハルヒ。起きろーおーい・・・だめか」 そのまま読書を続ける気にもなれずハルヒを起こそうとした。 声をかけても反応が無いので体をゆすってみた。 すると寝ていて力の入っていない体は俺の真横に・・・。 我ながらこれは失敗だったな。俺の顔面とわずか15cmくらいの所に ハルヒの顔が!?理性のタガが外れそうになったが相手はハルヒ相手はハルヒ と呟いてどうにか自分を押さえ込んだ。 とりあえず現状をどうにかしないとな・・・。 と、考えている時にハルヒの目から涙が溢れていた。 「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」 家族の夢でもみているのだろ。 泣いているハルヒをこのままほおって置くのも何なので体の動くまま 起こさないように弱い力で抱きしめてやった。 明日俺の体が五体不満足になっていても知ったことか。何故かおれはこうしなきゃ いけない気がした。気のせいかも知れないが。
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「東中学出身、涼宮ハルヒ。ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」
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5日間熱心に勉学に励んだ後に訪れる束の間の休息。そんな貴重な休日に我々SOS団がどこにいるのかというと── ハルヒが福引で一発で引き当てた温泉旅館に来ている。 開催初日に引き当ててしまったことにより、客引き要素が70%減となってしまったその抽選会はもう悲惨だとしか言いようがなかったが。古泉に言わせれば 「涼宮さんがそう願ったんでしょうね」 とのことで、まぁそれについては初っ端から特賞を引き当てる確率と、 また都合よく5名様のご招待と書かれているその券を見て考えるとと妥当な推測ではある。 普通ならこんなものは家族で行くものだろうと思うのだが、ハルヒは家族に対しては長門が当てたもの (長門が一人暮らしとの説明も踏まえた上で)と言って誤魔化したらしい。 全く、そんな人生に1度、当たるかどうかも分からないような宝くじに匹敵する旅行券を、わざわざ団員で使おうとは。なんて独り言を漏らしたら、 「・・・・・・鈍感」 と後ろから雪融け水のように冷たな長門の声が耳に入った。 さて、旅館やホテルに着くと予想外に子供心というか、とにかく何かが湧き上がってきてウキウキしてくるのは何故だろう。 「探検しに行こう」と言ったのがハルヒではなく俺の口から発せられたものだから他3名は冷蔵庫にあったプリンが食べてみると実は卵豆腐だった、 なんてような顔になっている。まぁ、確かに俺も言い終わった後で多少しまった!とは思ったが。 「あたしが言う台詞でしょうが!キョンはヒラなんだから──」とそれはもう予想していたハルヒの言葉を軽くいなしながら他3名の意見を聞いた。 朝比奈さんはハルヒの機嫌を損ねないような言葉を選ぼうとしどろもどろで、長門はいつもの通り分厚い本を開いて物語の世界へ。 「僕達は・・・遠慮しておきます、2人で行った方が大勢で行くよりも隅々まで探検できるかと」 棄権なんてこのハルヒが認めるはずが無いだろうと思った瞬間 「じゃあいいわ、キョンと2人で行ってくるから、みんなは体を休めてなさい」・・・なんですと? ハルヒ、お前新幹線の中でなにか変なもの食べたんじゃないか、というかお前が一番疲れてるんじゃないかと聞こうとしたがもうすでに握られた手は そのへんの運動部よりも凄い力で引っ張られていき、こうして旅館探索が始まったのだった。 探索、とは言うものの。商店街が用意したような旅館、流石にそれほど広くもなく。地下の遊戯施設に立ち入っては「温泉浸かったら後でみんなで遊びに来ましょう」だとか、 開いてないレストランの前まで来ては「ここ、朝はバイキング形式で食べられるレストランなんだって」とか、つまり極一般的な会話に終わる探検だったわけで。 下見、という言葉の方がしっくりくるなと思うと同時に我が口から「探検しよう」なんて子供のような言葉が出てしまったことを再度後悔していた。 ふと握られたままだった手を見ながら、こんな風にハルヒと2人一緒だったあの日を思い出す。 当時こそ俺はその出来事を考えるたびに、手の届く範囲に拳銃がありさえすれば!なんて思っていたが。 今ではそんなことを考えていた頭の中の自分に鉛玉を撃ち込んでやりたいね。 俺は意外にもハルヒと共にいる時間を楽しいと思えるような性格を手に入れたらしい。と言えば遠まわしだろうか? 流石に俺でも自分の事を一端の健全な男子高校生だと思っているし、女子に全く興味が無いなんて今時の僧侶でも言わない事を、俺が言うわけが無い。 それがこの手を取っているハルヒなのかはまた別として。・・・だがまぁ、一緒にいて楽しい以上俺はハルヒを嫌いではないと自覚している。 「そういえばハルヒ・・・お前1年前と大分変わったよな」・・・1年前は毎日「退屈」、「暇」の言葉を製造し続ける特注機械だったのにな。 「なんか馬鹿にしてる?」っと、心を読まれかねないから少し控えておかないとな。 とはいえ、今でも毎週1回は「退屈」もしくは「暇」と呟きはするのだが。しかし古泉は「今年は例年に比べて本当に閉鎖空間が発生しなくて済んでますよ」と言っていた。 確か最後に発生したのはこの間のゴキブリ騒動の時だったとも言っていたな・・・ このゴキブリ騒動については家庭科の担任教師が入院の為2週間ほど学校を休んでいて・・・ で、それに伴って調理実習室の部屋が2週間閉鎖され、その後「調理実習室から異臭がする」との噂が囁かれはじめてから どういうわけか「調理実習室を調べて対処して欲しい」という話が悩み相談窓口から入ってきたんだよな。それも生徒会から。 生徒会長曰く、「こんな訳の分からない部を黙認させているのだから、たまにはそれに応じた働きも見せてみろ」だとさ。 便利屋じゃあるまいし。とは言うものの「対処してくれればSOS団の正式な承認を前向きに検討する」とのことなので 俺なりにハルヒを説得してさっさとこんな厄介事を片付けようと息巻いていたのだが。 調理実習室前に着くや、漏れ出てくる異臭。マスクを用意していて正解だったと他団員を見回し・・・ 涙を薄っすら浮かべている朝比奈さんに渡し、流石のパーフェクト宇宙人も若干眉を顰めているが・・・長門にも渡し 「ちょっと用事が・・・という訳にはいかないんでしょうね」当たり前だ、古泉。こいつにも渡し 口数が一瞬で0になって少々顔を引きつらせている我らが団長様にもマスクを渡し。 士気が下がりきってしまう前にさっさと開錠してドアを開け──そこから人間の女子2名の記憶は無いようだ。 惨状と言うべきか。2人が床に衝突するのを避ける為に両手が塞がった俺の目の前に表れた光景。 コンセントが外れ、ドアは半開きの冷蔵庫から飛び回る蝿。外からの空気が入ったことによって蜘蛛の子を散らしたように逃げていったがそれでも十数匹は目視できるゴキブリの集団。 長門がいなければこの惨状はあと数週間は惨状のままだったかもしれない。 高速言語を放つと同時にこの閉鎖(されていた)空間にいたゴキブリ、蝿、異臭、異臭元と思われる腐った食材etc・・・は亜空の彼方に消えていったらしい。 「・・・・・・任務遂行完了」マスク姿の長門がそういい終わると同時に鳴り響く古泉の携帯。 「申し訳ございません。・・・久々のバイトのようです・・・」 さて話を戻そう。 確かに四六時中一緒にいて、こいつの機嫌が手に取るように分かるようになった多大な能力を得てしまった俺が見ても、ハルヒは性格が丸くなったと言える。 が、しかしSOS団の活動意義が発足当時から不変であることも分かっているし、それならば何故ハルヒは閉鎖空間を発生させないような性格を得たのか不思議でならない。 「なぁ、毎日楽しいか?」ふと、答えを聞けば全ての疑問が解決される質問をハルヒに聞いてみた。 「あんたはどうなの?キョン」と返されたのは想定外だった。俺か?俺が毎日楽しいかどうかだって? 「・・・まぁ、楽しいと言えば楽しい、かな?」 「じゃあ、そんなもんなんじゃない?」うーむ。ハルヒらしからぬ答えだ。てっきりここで“退屈で暇でどうしようもないことくらいわかるでしょー! そんな質問をする前にあんたが楽しみを提供するよう頑張るのが有意義よー!”なんて罵倒されて、それに対して俺はそれでこそハルヒだと一人感慨にふける展開を考えていたのに。 そんな話を入浴中に古泉に話してみた。こいつならば涼宮の言わんとしていることを俺に分かりやすく教えてくれることだろう。 「それは・・・その通りの意味ですよ」・・・前言撤回。こいつに話したところで俺の脳は疑問を解決することはできなかった。 「フフ、失礼。しかし今まで常に自分の意見を押し通してきた彼女が、あなたに答えを任せた。それがヒントですかね・・・?」 ヒントなんざ言うくらいならとっとと正解を教えろってもんだ。俺はクイズバラエティーで分かりそうも無い難題を吹っかけられて反応を笑われる芸人じゃあない。 なんて言おうとしたがそれはハルヒによって阻まれた。 「お前!ハルヒ!なんで男湯覗いてんだ!」 「おや、体を洗った後で良かったですね、僕達」そういう問題じゃないだろ。 「ふふん、あんたがこっちを覗かないように監視してるのよっ!」俺は紳士だ、見るわけ無いだろうが。 どーだか、とからかうハルヒを俺もついからかいたくなって自分の胸を指差し 「見えてるぞ。」うそっ、という声と同時に崩れる椅子の音。 「あぁ、嘘だ。」 数秒してから返ってくるハルヒの怒声。久々にハルヒの口から「バカキョン」の言葉を聞いた気がするな。 部屋に着くなり用意されていた豪勢な夕食。ガイドブックや旅番組で見るようなまさにそれと全く同じ光景が目の前に広がっていた。 一番乗りで座布団に座ったのは意外にも長門。おそらく初めて見るんだろうな。生まれてまだ・・・4年しか経ってないんだから当然か。 急かすように他メンバーをじっ、と見つめ、全員が座るまでに要した時間は数秒。 ちなみに、長机を2人と3人で挟むように座布団が敷かれ、3人の方に長門、古泉、朝比奈さんの順で座ってしまったので必然的にもう片方には俺とハルヒが並んで座ることに。 長門は火をつけられた小鍋をまじまじと見続けている。分かるぞ、小学生のときの修学旅行で同じ気持ちを味わったもんだ。 ハルヒのいただきますの号令で料理を堪能・・・相変わらず長門の箸は速いな・・・なんて上の空になっていたら。 「ほら、ご飯粒ついてる」・・・まるで長門以外の時間が停止したようだった・・・漫画さながら、俺の頬に付いていたご飯を手に取り食べてしまったのだから。 「フフ。まるで夫婦のようですね」との古泉の声にハッと向こうに顔をやるハルヒ、耳が真っ赤だ。俺も顔が熱い・・・ さっさと食べて遊戯室行くわよ、と話をそらし、急いで飯をかっ込むハルヒ。・・・と俺。結局料理の味を楽しめなかった・・・ 温泉に浸かって腹ごしらえもして。もう快適な睡眠の安全装置は解除されいつでも引き金を引ける状態である。 適度な運動なんてしたらもう完璧に睡魔と書かれた銃弾は俺の頭を貫くね。 「馬鹿なことを言ってないで、次あんたの番よ!」と言うことで、古泉からラケットを受け取り俺なりに奮闘してみたのだが。 こいつはスポーツの神様が背後霊じゃないのかと思える試合だったな。なんで去年の孤島のときよりさらに強いんだよ・・・ ともあれ、何周かすると流石に全員に睡魔と書かれた銃弾は行き渡ったようで、最下位だった俺の奢りのコーヒー牛乳を振舞いつつ、部屋に戻ることとなった。 さて、人間という生き物は不思議なものであり、眠るという目的が別の事象によってなしくずしになる、なんてことはごくありふれた光景である。 この場合の事象とはトランプのことであり、いくつものメチャクチャなローカルルールが絡み合ってしまったそれはもはや大富豪と言えないゲームだったが。 罰ゲームに酒がハルヒの口から提案されたが、流石に高校生だけで来てるのに酒を飲んだ後の領収書を見られたら学校に通報されるかもしれない、 という説得の末これまたお決まりの奢りジュース。もちろんお決まりで俺の奢り・・・ どういう経緯で全員が睡眠という2文字に負けたのかは定かではない。遊びながらそのまま寝られるように放射状に布団を敷きなおしていたから、最後に電気を消した人間でないと知りようがない。 と、考えているのはつまり自分が起きているからである。変なジュースを罰ゲームで飲まされたからだな・・・キュウリ味のサイダーだっけな、うっ、思い出しただけで吐きそうだ。 暗闇にだんだん目が慣れてくると隣の布団が空になっていたのに気づいた。ハルヒだ。 トイレに行ってるのだろうか?という考えはそのまま5分過ぎたところで否定された。外に出て涼んでいるのかもしれない、が、ひょっとしたら。そう考えると既に俺は部屋を出ていた。 何故ハルヒがいないとこうも落ち着かないのだろうか。・・・そういえば世界が改変されていた時も。 まだ20年すら生きていない俺がこんなに1人の女子で心が不安になるのか?生意気すぎるにも程がないか。いや──俺は俺を誤魔化している・・・のか。 ぴたりと足が止まった。 「俺は、ハルヒのことが──好きなのかな」 がたたんとなにかに躓く音。振り返るとハルヒがソファーに尻餅を付いていて、弱々しい非常灯に照らされたその顔はかすかに赤くなっていた。・・・まさか。 「い、今の聞いてたり・・・?」 無言で頷くハルヒ。 「聞かなかったことにしてくれたりは・・・?」 無言で首を振るハルヒ。 ああ、俺の人生はここで終わったな。明日になれば団員全員に、月曜日になれば学校の笑い話のレパートリーに1話追加されるわけだ。 「あ、あたしも・・・同じ」 やれやれ。こういう話で笑われるのは男だけと相場が決まっているな。古泉あたりの端正な顔立ちの奴なら逆に七不思議に追加されそうだがな。 こんな普通さしか取り得の無い男子学生なら普通という項目が異常という項目に書き換えられて別のファイルに入れられるだけだ。 「あたしも・・・好き」 ・・・え?何?今幻聴が聞こえたような・・・ 「あんたのことが大好きって言ってんで・・・モガモガ」 幻聴じゃなかった・・・いや、危なかった。こんな大声を他の宿泊客に聞かれたら即追い出される。・・・しかし。 「これ夢か?」 スッ、と手が伸びて頬を抓る。古典的だが、確かに現実のようである。 「夢じゃない?」 コクコクと頷くハルヒ。ここでいまだに口を塞いだままであったことに気づく。 「おわっ、す、すまん・・・」 「まったく、部下が団長の口を塞ぐなんて、団員にあるまじき行為よ!」・・・まことに仰るとおりでございます。 「塞ぐならこっちでしょうが!」 ・・・俺の唇は、ハルヒの唇で塞がれた。 次に意識を取り戻したのは布団の中だった。あれは夢だったのだろうか。 時計に目をやるとまだ6時半で、みんな熟睡しているようだ。もちろんハルヒも。 ・・・閉鎖空間?いや、あの時俺の隣(ハルヒと逆)には古泉がいたのは確か・・・って、古泉はそれの専門家だからこれじゃ決め手にならん。 しかしその疑問はすぐに解決された。なぜなら、ハルヒの手と俺の手が握られていたことに気づいたからだ。 ・・・その手を離そうとしたがやめておいた。 ハルヒに夢で終わらせたく無かったから。 なぁ、あの時お前はいつから起きていたんだ? 「フフ。やはり気づいていましたか。」 古泉によると今回の件も特殊だというらしい。 神人が存在しない閉鎖空間だったとか、極めて感知するのが難しい空間だったとか、初めから近くにいたことで偶然入り込むことが出来たようだとか 言っていたが、閉鎖空間内での光景がフラッシュバックして大半は頭に入っていなかった。 「あの閉鎖空間の発生で何か世界に困ったことは?」 「起きていないですね。あ、困ったことではないのですがただ一つだけ変化が。」・・・何だ? 「あなたと涼宮さんの絆がより深いものへと変化したようです。」 そのまた次の週。不思議探索の日にまたも俺とハルヒ以外欠席となった。古泉の根回しだろうか。 ハルヒは特に非難することもなく、俺の奢りの缶コーヒーを飲みながら歩いている。 「あ、そうそう。商店街の福引券がまた1回分集まったのよね」と、いつのまにか丁度福引所の前に着いていた。 開幕と同時に特賞を失った福引と言うものはまるで全く弾まないバスケットボールのようである。 弾まないバスケットボールで観客を沸かす試合が出来ないことは商店街の方が一番よく分かっている。 そう、つまり特例として特賞をもう1本入れて客引きを図っていたのである。・・・が、ハルヒが来てしまったものだから大変。 流石に彼らの頭にも一般的な確率論が入っているはずだろうからそんな事態が起きることはまず予想しないであろう。 しかしそれでも“もしかしたら”が同じ比率で彼らの頭を蝕んでいるようであり、またそれが顔色を悪くさせる要因のであることが俺にも分かってしまった。 ここは俺が助けの手を差し伸べてやらなければなるまい。とまたも自分を誤魔化しつつハルヒに耳打ちする。 「3等の映画鑑賞券が当たったら丁度2人で行けるな」